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最高の予防法は、自分自身を知ること

 学術的研究によれば、アート関係の仕事をしていると、誰であれ精神的ストレスを受ける可能性があることがわかった。不法占拠した建物で底辺の暮らしをしていようが、ラスベガスのペントハウスに住んで金額六桁の小切手をかき集めていようが、それは変わらない。(中略)イギリスのチャリティ団体『ヘルプ・ミュージシャンズ』の調査によれば、ミュージシャンの60パーセントが鬱を経験しているという。(中略)睡眠遮断、家族や友人の支援がない状態で長期間ひとり路上生活をする孤独、仕事仲間の競争心や批判、インターネットの罵詈雑言、超特大のハイと壊滅的なロウをもたらす仕事。そういったことがすべてあいまって、大成功したアーティストにとっても、人生はみじめなものになりうる。

 

 ヴィジャヤ・マニカヴァサガールは、精神的な病を調査研究する目的で作られた非営利団体『ブラック・ドッグ・インスティテュート』の心理学部門でディレクターを務めている。彼は『サンプ』に、過酷なツアーは人をメンタルヘルス面で大きなリスクにさらすと語ってくれた。その理由は、睡眠不足や不健康な生活のせいで「気分や感情を平らかに保つ」のが難しくなることだけではない。乱痴気騒ぎが根本的な問題を覆い隠してしまうことも理由のひとつだ。「落ちこんでしまったり不安になったりすると、彼らは『どんちゃん騒ぎしちまって二日酔いなんだから、しかたないよな』などと言ってごまかしたりするんです。おかげで、根本的なところに問題があるんだってことが見過ごされてしまうんですね」とマニカヴァサガールは言う。

 

 同様に、パーティーをやって絶えず盛り上がったり盛り下がったりしていると、双極性障害による気分の乱高下に気づかない場合もある。それだけでなく、不安や鬱を抱えている人は、他人とのつながりを確認したくて、さらにひどい乱痴気騒ぎをする傾向があるようだ。「彼らは過去に気分を上げようとしたときのことを思い出しながら、試してみてうまくいった例をまたやってみようとするんです」とマニカヴァサガール。「でもあまりいい考えだとは思えません。気分の低下や不安といった問題を隠したり、何かで置き換えようとしているわけですからね。実際に必要なのは、専門家の手助けなんですよ」。

 ではもう一度言おう。アーティストたちにとって、つきまとう問題から身を守るための最高の予防法とは、自分自身を知ることだ。自分について学び、心の内でも外でも、自分を危険にさらすものへのガードをあげておくこと。そして問題が見つかったら、恥じることもためらうこともなく、専門家の助けを求めること。また、以前の私のように精神健康上の問題の埒外にいて、理解するのが難しかったり真剣になれなかったりするムキには、こう申し述べておこう。知識は力であり、教育は鍵だ。読め。聞け。そうすれば、以前ならできるとは思わなかったカタチで、考えかたを改められる(私もそうだった)。新しいデータをもとに考えを改められるというのは、現実とのしっかりした接点を持っている証でもある。考えを改められるのはいいことだ。そう思う。確かな証拠がそろっているんだったら当然だろう。

 くわえて、アーティスト諸君にはこう言っておきたい。自分を大切にしろ。そうすれば、ロックンロールであれ、ブルースであれ、ジャズであれ、絵画であれ、作品を作りつづけられる。きみにしか作れないものを作りつづけられるのだから。

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