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売れ残った犬や猫を引き取る「引き取り屋」の台頭

 しかし、規制強化が動物たちの惨状を招いているケースもある。2012年の動物愛護法改正以降、行政は繁殖業者などからの犬猫の引き取りを拒否できるようになった。安易な殺処分を減らすことが目的だったが、近年はこれが逆に、ペット販売業者や繁殖業者から、「引き取り料」を受け取って、売れ残った犬や猫を有償で引き取る「引き取り屋」という商売を生み出す事態につながっている。

栃木県のある引取り屋では、糞尿の掃除もせず、狭くて古いケージに犬を入れていた(日本動物福祉協会提供)

 さらに、この「引き取り屋」が、大量繁殖で酷使されて使い物にならなくなった犬を、「保護犬」として一般消費者に販売しているケースもあるという。

 細川弁護士は、実際にこうした引き取り業者を虐待で刑事告発したこともあるそうだが、「自分がどんな被害を受けたのか、言葉が話せない犬や猫の事件は有罪の証明が難しい」と苦渋をにじませる。2016年に公益社団法人日本動物福祉協会の代理人として刑事告発した栃木県の引き取り業者の事例では、動物愛護法違反では不起訴となり、狂犬病予防法違反(未登録、予防注射の未接種)で罰金10万円の有罪判決だけで終わったという。

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動物虐待罪は立証が難しい

「『売れ残ったペットを引き取る』といって1頭0円~2万円程度でどんどん引き取り、糞尿の掃除もしないような狭くて古いケージに放り込む。そして、まだ繁殖できそうな犬猫は売って、病気のものは動物愛護団体や個人に引き取らせていました。それ以外の個体はそのまま放置して、死骸もそのままにされていました。直接手をくだして殺しているわけではありませんが、人間で言うところのネグレクトであり、これは明らかに虐待といえます。テレビのニュース番組などでも大きく取り上げられ、世論は盛り上がったのですが、動物虐待罪で処罰するには、立証面で高いハードルがあります」(細川弁護士)

同じ栃木の引き取り屋にいた猫には、耳ダニが寄生していた(日本動物福祉協会提供)

 そもそも、日本ではまだ「保護犬」に明確な定義がない。保護犬を引き取ることは、倫理上はとても「いいこと」だ。しかし、大量繁殖の使い捨て対象だった保護犬を引き取る人が増えれば、繁殖業者に引き取り屋からマージンが送られ、「次の繁殖犬」を迎え入れるスペースと資金が生まれやすくなるとみる人もいる。

「『保護犬・保護猫』の定義を明確にすることで、悪質な販売業者や引き取り屋を取り締まることはもちろん必要です。しかし、ペットを家族として迎え入れようとする飼い主がもっと保護犬猫が生れてしまう背景に興味を持ち、その子を迎え入れることで何が変わるかまで目を向けていただけるとうれしい。そして保護動物を受け入れる善意がまっとうな行動として社会に影響を与えられる事で、犬や猫との楽しい時間を最後まで重ねられる社会環境が広がればいいなと思います」(成田さん)

(参考)
すし詰め子犬工場「まるで地獄」ー Jam-packed puppy mill "Just like a hell" - YouTube
【福井県動物繁殖業者を告発】福井検察審査会「不起訴不当」と議決 再捜査
子犬工場の虐待容疑、再び不起訴 福井地検、嫌疑不十分で捜査終結
犬猫を劣悪な環境で飼育した疑い 業者を書類送検へ 
犬猫の「引き取り屋」事件 虐待容疑は不起訴に疑問 
犬猫「引き取り屋」事件、不起訴は不当 検察審査会が議決 

細川敦史:弁護士
民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。

成田司:株式会社ジーパウ 代表取締役社長/ペットビジネスライター/動物福祉活動家
ペットショップ勤務、ブリーダーやペットサービス業を経て、動物福祉の発想に基づき、『人と動物が豊かに暮らせる社会環境つくり』をめざす㈱ジーパウを設立。業界団体の事務局運営や、災害時の飼い主支援や防災の啓蒙、動物福祉に基づくペットサービス業のコンサルタントなどを行う。雑誌などでのコラムや記事の執筆、動物愛護団体のセミナーでの講演や、メディアでの番組制作へのアドバイスなども行う。