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 2000年代後半から2010年代初頭のK-POP界では、ダンスがグループの知名度や人気を大きく左右したこともあって各グループが競って「◯◯ダンス」を生み出し、「カルグンム」と「ポイントアンム」はマストキーワードであった。たとえば、毎回さまざまなアイドルグループがゲストで登場する韓国のテレビ番組「週刊アイドル」には、自分たちの楽曲を2倍速にしても正確に踊れるかチャレンジする名物コーナー「2倍速ダンス」がある。そこで「ROUGH」という曲を完璧に踊りきったGFRIENDは、ハイレベルなカルグンムグループとして大きく話題になった(2016年)。ポイントアンムが自分も体を動かしてみたくなる「踊る対象」なら、カルグンムはアイドルグループの高いダンススキルを表す「見る対象」である。

K-POPはなぜ世界を熱くするのか』(朝日出版社)

 観客を圧倒するパフォーマンスを見せるメンバーを「ダンスマシーン」「踊神踊王(チュムシンチュムワン)」などと称賛する表現が多いことからも、韓国におけるアイドルのダンスに対する注目度の高さがうかがえる。「HIT THE STAGE」「DANCING HIGH」など、アイドルが高いダンススキルでもってバトルする番組もあるほどだ。

 また、ポイントアンムの流行には音楽的な潮流も関係している。第二次K-POPブーム時には、Wonder Girls「Tell Me」(2007年)、SUPER JUNIOR「SORRY, SORRY」(2009年)、T-ARA「Bo Peep Bo Peep」(2009年)、少女時代「Gee」(2010年)、KARA「Jumping」(2010年)など、曲名にもなっているフレーズを反復的なリズムに乗せて歌う「フックソング」が流行していた。前述のように2010年以降は韓国内でのヒップホップの台頭や海外作曲家を中心とするソングキャンプ的制作によって振付にも新たに変化が生まれてきているが、少女時代やPSY、最近のNiziUを見るかぎり、K-POPが海外に浸透していくにあたって「ポイントアンム」の貢献度は大きいと思う。

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全体のシンクロから個人が織りなすグルーヴへ

 TWICEの「TT」やソンミの「Gashina」などで世界的に知られている振付を生み出し、韓国でもっとも振付料が高いといわれている1MILLION Dance Studioのコレオグラファー、リア・キムさんにK-POPのダンスの変遷について聞いてみると、やはり今から5年くらい前まではどのグループからも一目でわかるポイントアンムを振付に入れてほしいと依頼されることが多かったという。ダンスの一部を強調しすぎると全体的なパフォーマンスの流れが作りにくく、振り付けるにも苦労が多かったそうだ。

泣いた顔文字を表現した「TTダンス」はポイントアンムの代表例

 しかし今ではポイントアンムをめぐる競争も落ち着いて、フォーメーションの移り変わりなどに力を入れた振付が増えてきている。K-POPライターのパク・ヒアさんは、全体から個への推移に注目する。「ヒップホップの流行も影響して、2010年代に入るとBTSやBLACKPINK、WINNERなど、メンバー一人ひとりの個性を見せるダンススタイルが始まりました。ファンも今はアイドルの個々のメンバーに対してソロで楽曲を出せるほどの個性を求めるようになりましたから。ただ、自分独自のスタイルを自然に出しながらもグループとしてはひとつにまとまって見えなくてはならないので、その調整が難しいんです」