日本ではアイドルグループは専属する一人の振付師と長年タッグを組んでキャラクターを醸成していくイメージが強いが、韓国では楽曲のカラーごとに振付師や振付のスタイルを都度変化させているようだ。その違いについてリア・キムさんは、「韓国では新しい文化や流行の受容と拡散が速く、それを受けて短期間で高品質のコンテンツを制作できるシステムを備えているからだと思います。それは長所でも短所でもあって、上手な人が登場すると作曲と振付がその同じ人に集中するようになり流行が画一化される傾向を生んでしまいます」とも話していた。
「ダンスを学ぶために韓国に行く」文化の発信地になりつつある韓国
とはいえ、K-POPのダンスに多様性を取り入れる動きももちろんある。SMエンターテインメントのアーティストの多くの作品に、日本人のs**tkingzや仲宗根梨乃が振付師として携わっていることはK-POPファンのあいだでは有名だが、マイケル・ジャクソンの「This Is It」公演を演出したトニー・テスタが、2012年にSHINeeの楽曲「Sherlock」を振り付けした際も大きな話題となった。彼は以降、EXO 、東方神起など同事務所のアーティストを次々に手がけたが、後に「Sherlock」の振付費用のみで1億ウォン(約947万円)かかったとMnetの番組で紹介されていて、MV制作費だけでも何億ウォンと聞くのに、いったい1曲のカムバックにかかる制作費はどれほどかと呆然とした。
こうしたK-POPに特徴的な振付はダンス人口の増加も後押しし、韓国ではダンススタジオがトレンドを生み出す場にもなっている。リア・キムさんの所属する 1MILLION Dance Studioは、韓国のYouTubeチャンネル全体で登録者数5位(2300万人)、累積再生回数は60億回(2021年1月時点)を超えてその名を世界に轟かせ、私の友人が何人もそのワークショップに行くほど、国外からダンスを学びにやってくる人が絶えない。いまやダンススタジオもアイドル事務所同様に定期的にVlog映像をYouTubeで配信していて、エッセイや写真集も出版するリア・キムさんのように、所属するダンサーは現代のファッションアイコンとして若者の憧れの的となっている。
余談だが、私も最近、ヴォーギングとワッキング(どちらも身体や顔のまわりに手を巻きつけるダンススタイル)を取り入れたチョンハの「Stay Tonight」のダンス映像をネットで見だしたら、振付師チェ・リアンさんの振付作業中の動画にバックダンサーの控え室の様子や練習映像と、クリックが止まらなくなり、ダンスをする若者たちが本場の韓国にひとっ飛びしてしまう気持ちがわかった。動画を駆使した発信によって振付そのものを一大コンテンツ化し、「ダンスを学ぶために韓国に行く」という人の移動まで生み出しているダンススタジオは、もはやアイドル文化だけの発信地にとどまらない。
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