岩下志麻さんに女優人生をうかがった『美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道』(文藝春秋)が文庫化されることになり、改めて岩下さんにインタビューをさせていただきました。内容は「子育てと女優業の両立」と「役作り」という二本柱になっています。
ページ数の関係から掲載できなかったお話も多かったので、今回は文庫本未収録となるお話の一部を、刊行記念企画としてこちらに寄稿することになりました。
「覚えにくいセリフは自分とリズムが違うんです」
春日(以下――)――今度はセリフの話をうかがわせてください。仲代達矢さんは、「セリフを覚えることさえしないでいいのなら、役者ほど楽しい仕事はない」とおっしゃっています。岩下さんはセリフを覚えることに関してはいかがですか。
岩下(以下「 」)「私は、若い頃は2、3度読むと、サアッとセリフが入ってきちゃうくらいセリフ覚えがよかったんです。今はやはりすごく時間がかかります。私の場合は、声を出して読むようにしています。声を出して何度も何度も。そうすると自然に自分の中にそのセリフが入ってくる。それを繰り返していますね」
――その時は、毎回台本の最初から最後までのセリフを読むのでしょうか。
「そうです。最初は一冊全部ですね。丸ごとやっておかないと芝居の流れとか強弱とかそういうものがつかめなくなるので。それで撮影のスケジュールが決まると、今度はそのシーンだけに集中して何日か前にやっていきます」
――俳優さんによっては、覚える段階で声に出す人、出さない人、それぞれいらっしゃいますが、岩下さんは声を出すのですね。
「相手のセリフをテープに入れて、それを聴きながら自分のセリフを言って覚えるという方もいらっしゃるみたいですね。私の場合は撮影前には必ず事務所の者に相手役のセリフを読んでもらって、それで自分のセリフの受け渡しを確認するんです。それは昔からやっています」
――覚えにくいセリフに出くわした場合、どう対処されていますか?
「言いにくいセリフとか覚えにくいセリフっていうのは、書くようにしています。そうすると結構入ってくるのね。覚えにくいセリフというのは、どこか喋っていて自分とリズムが違うんです。それから専門用語がいっぱい入っていたりする場合もそうですね。そういう時は、一度書いておくと、けっこう入りやすくなります」
――自分とリズムが違うっていうのは、やはりあるわけなんですね。
「ありますねえ。書いてらっしゃる方と私は違うわけだからね。書いてらっしゃる方はそのリズムで書いてらっしゃる。ですから、凄くやりやすい脚本と慣れるまでは喋りにくい脚本があります」
――俳優という仕事としては、そのリズムが合わない場合でも、自然に喋れるように自分の中に入れていくしかない――。
「そうそう。入れていくっていう感じです。消化しきれないで現場に行くと、ちょっと間違えたりするんです。ですから消化しきるまで、喋りにくい所はしつこく練習したりします」