日本人の舌に合ったアレンジ
食品工業の創業者、中島董一郎は大正期に農商務省の海外実業練習生としてアメリカに渡り、マヨネーズと出会って日本でも好まれると確信、帰国後の製造販売を決意した。ただし国産化にあたっては、日本人向けのアレンジを施している。
「アメリカ式のマヨネーズは原料に全卵(黄身と白身)を使用するのですが、中島は黄身のみを使いました。当時の日本人の中でも小柄だった彼は、西洋人の大柄な体を目の当たりにして自国民の栄養不足を痛感、より滋養の高いマヨネーズにして日本人の体格向上を促そうとしたのです」(吉田氏)
このアレンジは栄養価だけでなく、味のバランスにも影響を及ぼした。
「卵黄のみの使用だと腐敗しやすくなるので、中島は天然の防腐剤であるビネガー(酢)を、アメリカ製マヨネーズの2倍ほど多く配合しました。結果として、アミノ酸が豊富な卵黄やビネガーの『うま味』成分が前面に出た、醤油や味噌にも通じる日本人好みのテイストに仕上がったのです。さらにきりっと立った酸味も、酢の物などで日本人になじみ深いものですからね」(吉田氏)
つまり国産マヨネーズは、その誕生時から日本人の舌に合わないはずがないレシピで作られていたわけだ。だからこそ、日本の食文化に広く浸透するに至ったのである。
マヨネーズのミニパックだけが売上減少している理由
にもかかわらず、だ。
テイクアウトやデリバリーの需要が飛躍的に伸びたコロナ禍の中、なぜ日本ではマヨネーズのミニパックだけが、売り上げを伸ばすどころか前年比で減少となってしまったのだろう?
「それはシンプルな理由だと思いますよ。日本でテイクアウト可能な食品についてくる調味料のミニパックで代表的なものは、弁当屋の各メニューや、コンビニのチルド弁当に入っている醤油やソースですよね。でもマヨネーズのミニパックが添えられるテイクアウト向け食品と言われて思い浮かぶのは、せいぜいたこ焼きとか、コンビニで売っているおつまみのゆでイカぐらい。いずれもコロナ禍でどっと需要が増えるような食べ物ではありません。それどころか在宅ワークが増え、都心のコンビニはどこも客数が激減しましたから、比例してマヨネーズのミニパックの出荷量も減ったのでしょう」(吉田氏)
さらにキユーピーの広報によれば、次のような要因も考えられるという。
「学校給食で使われるマヨネーズのミニパックも、休校や簡易給食への変更により需要が減った時期がありました」
なるほど。なんのことはない、コロナ禍の日本でマヨネーズのミニパックの需要が減少したことは、不思議でもなんでもなかったのである。