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9連勝のあと、まさかの……

 苦しい経験が照ノ富士を磨き上げました。まさに「艱難辛苦汝を玉にす」ということでしょう。

 照ノ富士は初日から無傷の8連勝で勝ち越しを決め、相撲内容も非常に良かった。体を丸めて立ち合いからしっかり当たり、まわしを取れば「勝負あり」。丁寧に、考えながら相撲を取っていました。力をつけてきた若手の明生や若隆景を一蹴し、御嶽海や大栄翔にも押されず問題にしなかった。元横綱朝青龍を叔父さんに持つという注目の豊昇龍との対戦は、力の差を見せつけて圧勝しました。

 優勝に向けての最大の山場と見ていた関脇高安との一番は、全勝のまま9日目に組まれました。立ち合いから高安ペースで、この一番は高安が自信をもって取っていました。動きを止めず、照ノ富士攻略のお手本のような攻めでしたね。横から攻められ、照ノ富士も片足で残す。負けたと思ったのですが、土俵際でのはたき込みで、照ノ富士の9連勝。

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 毎朝、稽古場で「お蔭様で勝ちました」(照)「大関だから当たり前だ」(安)と一種のゲン担ぎのように話していましたけど、「もうこのまま独走して優勝かな?」と思った11日目の妙義龍戦。相手の髷をつかんだとのことで、まさかの反則負け。

 ニュースになったアミメニシキヘビ逃亡と同じくらい驚きました。こんなこともあるのだな、と。(ちなみに元関脇アミニシキはずっと国技館にいました)

照ノ富士(右)と

「今日は髷を掴むなよ?」

 反則負けを引きずっていないか心配もあり、次の日の朝稽古で声をかけました。「今日は髷を掴むなよ?」と言うと、照ノ富士は笑っていて「精神的に大きくなったな」と感じたものです。その日は負けを引きずる様子もなく、今場所一番の相撲で阿武咲を下しました。

 星二つ差で追い掛ける大関貴景勝と前頭遠藤の二人。「誰が優勝するのかな?」との思いを抱いた14日目。照ノ富士は遠藤との一番です。勝てば照ノ富士の優勝でしたが、遠藤の上手い攻めに際どい相撲になりました。

 軍配は照ノ富士に上がったものの、行司軍配差し違えで遠藤の勝ち。

 やれやれ、神様は随分と試練を与えるものです。――乗り越えられる人には。

 迎えた千秋楽。ありがたいことに4日目から観客を入れての開催で、たくさんのお客様に国技館まで足を運んでいただきました。場所中に発覚した某大関の行動には、あえて触れませんが、力士たちは精一杯に土俵を務めたと思います。