ソープの仕事が天職だと言った桃子
私が吉原を初めて取材したのは、5年ほど前のことだった。話を聞いたのはソープランドで働く桃子(24、仮名)という女性だった。
ソープランドの一室で話を聞いたのだが、まず驚かされたのは、彼女の荷物だった。何日かの旅行にいくような大きな黒いボストンバッグが部屋の片隅に置かれていた。
「お客さまを迎える時の服だったり、仕事で必要なものを入れると、これぐらいのバッグが必要なんですよ」
なぜそんなに服が必要なのかというと、1日に迎える客ひとりひとりに合わせて服装を変えるのだという。彼女なりの心遣いとプロ意識が、ボストンバッグいっぱいの服なのだった。
「私はエッチも好きですし、この仕事は本当に好きなんですよ。だから精神的に落ち込んだりすることもないんです」
彼女はこの仕事が天職だとも言った。
桃子は高校時代から風俗稼業に入り、数々の風俗業界を渡り歩いてきた。飛田の青春通りでは半日で20人の相手をしたという。さらに福原、雄琴、川崎、中洲と各地のソープランドで働き、辿り着いたのが吉原の高級ソープだった。どの店でもトップを張り、風俗業界を道場破りしながら歩く、“女版宮本武蔵”のようだなと思った。
月に2回は性病の検査へ
そんな彼女が一番気をつけていたのが、性病だった。
「コンドームは必ずつけてますが、月に2回は性病の検査に行きますよ。1回2万円はかかるんで、お金は痛いですけど、仕方ないですね。その時には、喉の検査もしてもらうんです。意外と喉に感染しているっていう人が少なくないんです」
血液検査や喉の性病の検査は店が出してくれるわけではなく、すべて自腹である。吉原では、コンドームを着けないサービスも少なくないが、彼女は絶対に無理だといった。
「外国からのお客さんも最近多くなってきて、梅毒などの性病に罹った女の子もいるって話です。そうした子は勿論、コンドームを着けてない店の子だと思います。女の子もそんなサービスはやりたくないんですよ。だけどお客さんを取る為に仕方ないと思ってやっているんです」
桃子は若さもあり、多くの客がついているが、いつまでも続けられる仕事ではなく、貯金が楽しみだとも言っていた。彼女は24歳の若さで浮かれることなく、冷静に現実を見ていた。
果たして、そんな彼女はこのご時世、どう生きているのか気になって、メールを送ってみたのだが、残念ながら送り返されてしまった。もし現役を続けていれば30歳。機を見るに敏な彼女のことだから、すでに引退をして幸せな人生を送っていることだろう。