江戸時代に産声をあげて、400年以上の歴史を持つ色街、東京・吉原。この街で働く女性たちは、長引くコロナ禍をいかに生き抜いているのか――。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)の著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が現地を歩いた。(全3回の3回目/#1#2を読む)

静まりかえった吉原の街(羽田さん撮影)

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コロナが怖くてソープの仕事を辞めたけど…

「毎年お正月は、予約のお客様でお店はいっぱいになるんですけど、全部の部屋が埋らなかったのは私が7年仕事をしていて初めてのことでした」

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 新型コロナウイルス感染者の急増によって、東京に2度目の緊急事態宣言が出されたのは2021年1月7日のことだったが、年末から年明けにかけての感染者の急増によって、吉原の客足は例年とは比較にならないほど落ち込んでいた。

 以前取材したデリヘル経営者が紹介してくれたソープ嬢の真理子(33歳、仮名)も、コロナの影響を受けていた。昨年4月に1回目の緊急事態宣言が出された際、ソープでの仕事を辞めたという。

「小学生の娘がいて、彼女と2人で生活をしているので、コロナが怖かったんです。ソープの仕事はもろに濃厚接触じゃないですか。もし私が感染しても、ひとりで生きているのなら、自分だけが苦しめばいいんですけど、娘にうつしたら学校にも迷惑がかかりますし、どこで感染したんだということにもなるじゃないですか。いろいろ考えていたら、続ける気になれなかったんです」

「仕事を辞めてもその先の目処は立っていたんですか?」

「ソープ時代には、ある時から毎月100万円を目標に貯金をしていました。それなので、今も4000万円ぐらいは貯金があるんです。私は貯金をすることが大好きで、お金を見ていると落ち着くんです。そのお金はすべて銀行には入れないで、家に置いてあります」

話を聞いた吉原の高級ソープで働いていた桃子 ©八木澤高明

「銀行にはなぜ入れないんですか?」

「こういう仕事ですけど、ダミーの会社でアルバイトをしていることにして、確定申告もしています。ただ、きっちりと収入をすべて申告しているわけではないので、そんなに貯金があったら、すぐにおかしな申告をしていることがバレますよね。それなので、銀行に大金を入れて目をつけられないようにしているんです」