吉原に増えた「ファミリータイプのマンション」
「お店決まってますか? ご案内できますよ」
と、案内所の男性が声を掛けてきた。コロナの影響だろうか、歩いたのは午後6時をまわった頃だったが、客と思しき男性を見つけることができない。かろうじて、3人組の男性が、頬を緩ませながら歩いているのに出会った。一方で目についたのは、自転車に乗った親子の姿だった。吉原の中に建てられたマンションで暮らすファミリーが増えているのだ。
「数年前から。吉原だけじゃなくて、山谷のドヤを潰して、どんどんマンションが建っているのよ」
明かりが消えた吉原の写真を見せてくれた羽田が言った。吉原には、現在140軒のソープランドがあるというが、全盛期の6割ほどだ。そして山谷のドヤ街も労働者の高齢化により、外国人旅行者向けのホテルやマンションなどに姿を変えている。行政からしてみれば、ソープランドが消えていくということは、彼らにとっての街の健全化が達成されるということであり、喜ばしいことなのかもしれないが、私には、400年という歴史を生き抜いてきた巨木が少しずつ朽ちていっているように見えて、何とも切なくなってくるのだった。
街を歩きながら現役のソープ嬢に話を聞けないかと思った。そこで私が頼ったのは、以前取材したスカウトとして吉原に女性を紹介している龍雄(36、仮名)だった。
後日、龍雄と池袋で10年ぶりに会った。
「久しぶりっすね」
池袋西口にある喫茶店で先に店に入って待っていると、こんがりと日焼けをした男性が入ってきた。10年ぶりということもあり、顔や姿ははっきりとは覚えていなかったのでが、張りのある声を聞いて、かつての記憶が蘇ってきた。
「何だか寂しい景色ですよね」
最近の吉原について尋ねると、開口一番に出たのは、光を失った街の様子についてだった。
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