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熊を食べる

 熊の解体が終ればいよいよ次は料理の始まりだ。今回のメニューは3品。今朝まですぐそこの山を歩いていた熊の赤肉の鍋、骨付き肉の鍋、そして内臓の鍋。どれも鍋ひとつで作るマタギ熊料理の極め付きばかり。もちろん調理するのはマタギである。薪ストーブの上で釜の湯がぐらぐら沸き、ガスの上でも鍋が煮えている。ふたつの料理が同時に進む。鍋を囲んでマタギたちが話している。

「もうちょっと砂糖さ入れたら」

「んだ、んだ。でもほんのちょっこしだな」

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マタギ特製の熊の内臓鍋料理。決して多くない熊肉を扱う店でも、内臓は絶対に手に入らない貴重品である 写真=筆者提供
テーブルに置かれた鍋からは山の香りと湯気が立ち上る。これがマタギの明日へとつながる 写真=筆者提供

 楽しそうに話しながら味付けをするマタギたち。近頃はキャンプに出かけてもやたら面倒な料理を作ったりする人もいる。しかし、キャンプ場で本格的イタリア料理を作る必要があるのだろうか。カレーでいいのだキャンプなんて。1泊2日程度の短い時間は、余計なことをせずにその分自然と交わるべきだ。ましてや、ゲームやカラオケまで持ち出すに至っては言語道断。家の中でできないことをやるのがアウトドアの鉄則ではないのか。ハウツー本に振り回されて目いっぱいスケジュールを組まなくてもいい。1杯のコーヒーを飲みながら、何もしないでのんびりするのもアリだ。

 話が逸れてしまったのでマタギ熊料理に話を戻そう。味付けは至ってシンプル。3つの鍋はすべて同じで味噌と醤油と酒と砂糖というマタギ料理にはお馴染みのもの。肉以外の具材としては大根やゼンマイが入る。熊とゼンマイがこれまたよく合うのだ。実はゼンマイをうまいなどと今まで思ったことがなかったのにこの鍋を食べるとうまいと言わざるを得ない(九州人はあまり山菜を食べる習慣がない)。

熊鍋の中へ豪快にゼンマイを入れる。熊と同じで山で採れたゼンマイは相性抜群の食材だ 写真=筆者提供

 熊肉は臭いと思っている読者も多いと思うが決してそんなことはない。私が子どもの時に食べた鯨肉のほうがよっぽど獣臭かった記憶がある。