映画、小説、漫画でもたびたび取り上げられ、「マタギ」という言葉自体の知名度は高い。一方で、現実のマタギがいったいどのような暮らしを送っている、どんな人たちなのかを知っている人は少ないのではないか。

 そんなマタギについて、20年ほど前から定期的に取材を行っているのがフリーカメラマンの田中康弘氏だ。ここでは、秋田県の山中に暮らすマタギの暮らしに迫った同氏の著書『完本 マタギ 矛盾なき労働と食文化』(山と溪谷社)の一部を抜粋。熊を狩り、そして食べる。彼らの生活の一端を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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熊を狩るということ

 マタギや山の民の生活に興味はあるが熊を殺して食べるのは許せないという人は結構いる。まずいっておくとマタギは欧米のハンターたちとは違う。欧米のスポーツハンティングは豊かな階層の遊びであり(もちろんマタギ同様に食べるために狩りをする人たちは別だ)、ただ殺すのが目的である。人間よりはるかに巨大だから殺して自慢する。珍しいから殺して自慢する。やたら殺してその数を自慢する。殺生それ自体を楽しむためにあらゆる生き物を狩りの対象にしてきたのだ。それらとマタギを同じ土俵のハンターと考えることがまず間違っている。

 特に欧米のつくり上げてきたシステムがいかに自然を痛めつけるものだったか。近代文明がいかに傍若無人に振る舞ってきたか。エコロジーという考え方はつい最近出てきた話であるがマタギや山の民は大昔からエコロジカルな生活をしてきたのだ。そんな山の民の生活の一部である熊狩りを山里の暮らしが何たるかを知りもせず、また知ろうともせずに異を唱える人たちがいる。可愛い熊を殺すとはけしからん、許せんと。そうした人々からの心ない非難から自分たちの生活形態を守ろうとした結果、マタギ里の猟友会ではマスコミを排除する方向に動いたのである。情報が伝わらなければ抗議も来ないという考えなのだろう。しかしこれには賛成しかねる。積極的に宣伝する必要はないがことさらに隠す必要もないと思う。