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「場所もない、人手もない」「上からの指示が二転三転」…自治体職員が語る、ワクチン接種“現場の壮絶さ”

2021/06/08
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接種開始予定の直前に、ようやく詳細を知った

 Aさんに、どういった部分が一番大変だったのか、もっと合理的にできたのではないかと思うところはどこかと尋ねると、

「国に共通の、効率的で詳細なフォーマットを示していただけるとありがたかったかなと思います。というのは、ワクチンが来るまで、自治体担当者は、月に1回のオンライン説明会に出席していましたが、スタッフの集め方や報酬、ワクチンのロジスティクスなど、具体的な話はあまりありませんでした。

 また、ワクチンがくる直前の2月頃に、首都圏で公開シミュレーション等がありましたが、そのときになってようやく、少しイメージを持つことが出来ました。当初は、接種を3月からと言っていたので、本当に直前ですよね。

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 医師会にも国から十分説明し、自治体への協力を求めて欲しかった。国も、初めてのことだったというのは理解していますが、具体的なことは、すべて自治体任せで、『丸投げ』ともいえる状態でした」

ワクチンの希望者がとにかく多い…前例のない事態

 その後、Aさんをはじめとして、自治体職員が休日も返上で奮闘し、現在では、該当する高齢者の多くが7月までのワクチン接種の予約を完了。ワクチン接種も着々と進んでいるが、人員不足がいまだに課題だという。

「医師、看護師も、どうにかまわしていますが、まだ、人員は大変です。休職中の看護師さんも募集しましたが、中には、『薬剤の希釈や充填に自信がない』など、実務に自信がもてずに辞退をされた方もいらっしゃいました。今は非常に忙しく、医師も休日返上でワクチン接種に奔走しています。

『希望するすべての人にワクチンを』が国の方針であり、わたしたちもそう考えています。わたしたちが少し驚いているのは、ワクチンの希望者が、思った以上に多いことでした。例年、インフルエンザは、6-7割の接種率です。現在、それをはるかに超える割合の人が接種を希望されています。自治体は、ここまで多くの市民の要望に対応するのは、はじめての経験かもしれません。

 皆さん接種に前のめりで、副反応についてしっかり理解された上で希望されているのかどうかわからず、もし何か起きたら、誰が責任をとるのだろうと、かえって怖さを感じることもあるくらいです」

 Aさんは、これから2ヶ月、さらに休みなしで、ワクチン接種に奔走するようだ。Aさんの奮闘は続く。