ようやく日本でも接種が始まったとはいえ、いつ自分に順番が回ってくるのかもわからない新型コロナワクチン。100人あたりの接種回数の国際比較を見ると、イスラエルがすでに約120回に達しているのを筆頭に、アメリカ約69回、イギリス約68回。ドイツやスペインなど欧州諸国でも30回前後だが、日本はたった2.3回でG7の中で最低となっている(4月28日現在、NHKウェブサイトより)。
接種率の高い海外では、急速に感染発症者数が減少している国もある。マスクを外してカフェで談笑する市民の映像は、緊急事態宣言に縛られて行き場を失った日本人には目の毒だ。
なぜこうも国によって状況が異なるのか。そもそも期待されていた「国産ワクチン」はどうなっているのか。日本ウイルス学会理事長で、大阪大学感染症総合教育研究拠点の松浦善治特任教授に、いまさら人に聞けない「新型コロナの国産ワクチンに関する11の疑問」を解説してもらった。
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どうして、これほど日本の接種は進まないのか?
【Q1】海外ではワクチン接種率が上昇し、成果も上がっているのに、日本ではようやく高齢者の接種が始まったばかりです。どうしてこのような状況になってしまったのですか。
【A1】ワクチンを作れる国はまず自国民の接種を優先するので、他国への供給は後回しになります。もし日本が自前のワクチンを持っていたとしても、同じことをしたはずです。つまり、ワクチンは「安全保障の切り札」なのです。
海外の多くの国は、今回のような緊急時には通常時とは違って、新しい薬剤の承認を迅速に進められる仕組みを整えています。日本は「安全性を優先する」という理由で、国内で使う薬剤の承認には慎重で、どうしても時間がかかります。安全性を追求することは悪いことではないけれど、結果として最前線で働く医療者や重症化リスクの高い高齢者も、なかなかワクチンを打つことができずに待たされる、という結果を招いているのです。
ファイザーのワクチンがいち早く大量生産できた理由とは?
【Q2】日本でも、これまで様々なワクチンが開発されてきました。従来のインフルエンザのワクチンなどと同じように、新型コロナウイルスのワクチンも速やかに作れないのでしょうか。
【A2】新型コロナウイルスに向けて開発されているワクチンには、全く新しいタイプと、従来からあるタイプがあります。
そもそもワクチンとは、病原体の毒性を弱めたり、無毒化したもの、あるいはその一部を体内に接種して免疫システムに記憶をさせておき、次にその病原体が体内に侵入してきた時に、免疫システムに「あいつだ!」と判らせるために打つもの。外敵の正体がわかれば免疫システムが作動して排除してくれます。
そこで従来型のワクチンには、病原体そのものを弱毒化させた「生ワクチン」、病原体の感染性を無くした「不活化ワクチン」、病原体の感染に重要なタンパクの一部を接種する「タンパクワクチン」などがあります。このようなワクチンはこれまで日本でも多く開発されており、通常は10年以上の開発期間を要します。
これに対して、日本でも接種が始まったファイザー社のワクチンは「mRNAワクチン」とよばれるもので、これは病原体そのものは使いません。対象となるウイルスの遺伝子(設計図)を体内に入れることで、「こんなヤツが来たら攻撃しろ!」と命令する、新しいタイプのワクチンです。この設計図は遺伝子の配列さえわかれば簡単に作れて、すぐに生産に入ることが可能です。