「日本製」が出来た頃には、日本人は他国製を接種済み?
【Q3】では、国産ワクチンの開発はどんな状況なのでしょう。日本はmRNAワクチンを作れないのですか。
【A3】今回ファイザーが開発したmRNAワクチンは、じつは以前から、日本でも開発に向けた研究が行われていました。しかし、研究費が継続されず、研究そのものが立ち消えになってしまったため、たとえ試作品は作れても、スピーディーに治験(薬やワクチンの有効性や安全性を検証する試験)をして、大量生産する体制が整備されていませんでした。
とはいえ、そんな中でも日本のいくつかの企業がワクチンの製品化に向けて取り組んでいることはご存じのとおりです。
ファイザーなどと同じmRNAワクチンの開発に取り組んでいるのが、第一三共と東大医科学研究所。また、遺伝子創薬企業アンジェスのDNAワクチンは、mRNAワクチン同様、ウイルスの表面にある「スパイクタンパク質」という突起物(受容体)の遺伝子を増殖させたもので、これを打つことで体内にそのウイルスのスパイクタンパクを作り出して抗体にするという、やはり従来にはなかった新しいタイプのワクチンです。また、KMバイオロジクス(旧化学及血清療法研究所)の不活化ワクチン、塩野義製薬のタンパクワクチンなど、従来型のワクチンの開発も進められています。
ただ、それらのワクチンが製品化される頃にはファイザーやモデルナの既存ワクチンを多くの国民が接種し終えていることでしょう。せっかく出来上っても、ウイルスの流行期に間に合わないかも知れません。
また、mRNAワクチンが「95%」という極めて高い有効性を示しているのに、あえて新しいワクチンの治験に参加する人がどの程度いるのか、という問題もあります。すでに有効なワクチンがあるのに、治験に参加することで副反応が出る危険性もゼロではないのに、です。
このように、最初の出遅れが大きく影響を及ぼしてしまった日本のワクチン開発ですが、今後新しいパンデミックが出現したときには、海外のメーカーに依存しないために、ここでワクチン開発の実績を残し、その技術を継続して持ち続けることが重要です。
なぜ、ここまでワクチン開発のスピードに差が出るのか?
【Q4】日本と海外で、ここまでワクチン開発のスピードに差が出たのは、技術的な問題以外にも理由があったのでしょうか。
【A4】一番大きいのは、「感染症に対する危機感の違い」です。多くの国々では、感染症対策を「国防」という視点で捉えています。いい例がアメリカで、2001年の同時多発テロ以降、生物兵器に対する警戒感を強めており、ウイルス対策もその延長線上に置いています。事実、今回新型コロナ用ワクチンを開発したモデルナは、アメリカ国防省から多額の支援を受けています。イスラエルがワクチン接種率で群を抜いていることも話題になっていますが、ここも常に戦時下のような状態にあったため、バイオテロから国を守る、という意識の高さが積極的な取り組みの根底にあるといえるでしょう。
一方、台湾や韓国は、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)で痛い目に遭っているので、感染症対策に本腰を入れていました。ところが日本は過去にそうした経験を持たないため、感染症対策を重視することなく来てしまいました。
国内の「ワクチン叩き」の影響も
【Q5】日本はなぜ国産ワクチンの開発に消極的なのですか。
【A5】日本も、かつては積極的にワクチン開発に取り組んでいました。いま世界で使われている水痘と帯状疱疹のワクチンは日本で開発されたものです。
ところが、1970年代から始まった種痘、インフルエンザ、ポリオ、百日咳、日本脳炎、腸パラチフスなどのワクチンによるとされる健康被害の責任を問う争いで国側は相次いで敗訴。また、当時のメディアがこぞって「ワクチン叩き」を展開したことから、大手の製薬企業もワクチン開発から撤退を余儀なくされたのです。
ワクチンの有効性を科学的なエビデンスに基づいて国民に正確に周知することが非常に重要です。それには行政と研究者はもとより、責任あるメディアの報道が不可欠です。