自爆テロの意思を持つ「黒い未亡人」がソチに潜入との情報も
五輪は期間中、世界中に開放され、多くの人たちが訪れると思っている方々も、日本には多いかもしれない。しかし、その考え方はそもそも間違った幻想だ。期間中はむしろ海外からの旅行者が減る。五輪の成功例とされるロンドン五輪でさえ、パラを含めた開催時期の3カ月間で、旅行者が減少したことが報告されている。
ソチは治安対策のため、五輪期間中、閉鎖都市と化した。1カ月前からソチナンバーの車両や緊急車両以外、通行できなくなった。至るところで軍や警察の「見せる警備」が徹底され、厳重な検問、職務質問が行われた。
プーチン政権は、テロを起こす可能性のある人物の手配写真を公開した。駅や主要ホテルなど至る所に、自爆テロを起こす可能性の高い容疑者の女性3人の写真が貼られていた。独立運動で夫や家族をロシア治安当局に殺害され、自らも自爆テロの意思を持つ「黒い未亡人」だった。彼女らもまたソチに潜入したとの情報が駆け巡った。
「腹にダイナマイトをまいている疑い」をかけられた日本人
東京からやってきた私の同僚は大柄なのだが、ある時、移動した際に利用した鉄道の主要駅で治安要員ににらまれ、下着以外の服を全部脱ぐよう命じられた。「あなたは腹にダイナマイトをまいている疑いがある」。彼は半裸になって、身の潔白を証明した。
いつも冗談を言い合う彼がプレスセンターに帰ってきて真顔で「佐々木さん、ひどい扱いを受けました。怖かった……」と語った。そのエピソードを聞いたとき、私は「ロシアの治安当局にホスピタリティーはない。東京では絶対にありえない経験だ」と彼に伝えたことを覚えている。普通の日本人がテロ容疑者に疑われるほどの現地での警戒ぶりがこのエピソードだけでもわかるだろう。
米国政府は有事が起こった際に、ソチから自国民を緊急離脱させるための策を練っていた。日本政府はどうなのか? と外交官に聞いたら、日本政府も米国政府の協力を得て、プランを練っていると答えた。
ソチ五輪の後半には隣国ウクライナで抗議デモが悪化し、警官隊と過激派が衝突。首都キエフが火の海になった。こちらにも騒動が飛び火してくるかもしれない。私は取材団の安全を第一に考え、なんとか五輪が無事に終わってほしいとひたすらに願った。結局、プーチン政権は国家の威信をかけて、ソチの安全を守ったのである。