作家デビュー20周年を迎えた警察小説の第一人者・堂場瞬一さん。オウム事件や和歌山カレー事件、ルーシー・ブラックマン事件など難題の先頭に立ち、『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』の著書がある、‟伝説の科学捜査官”服藤恵三さんと語った。(全2回の2回目、#1より続く)

©石川啓次/文藝春秋

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本職から見た警察小説

服藤 本日お目にかかるにあたって堂場さんの新刊『赤の呪縛』(文藝春秋)を拝読しました。ひとつの放火事件がきっかけとなって、大きな闇が暴かれていく警察小説で、すごく面白かったです。「次どうなるんだろう、次どうなるんだろう」とワクワクさせられました。

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堂場 ホッとしました。警察小説を書いている身として、現役の警察の方やOBの方に読まれるのが一番怖いんです。特に警察官の動きはリアルに描きたいと思っているので、「今はこんなことしないよ」と言われると、謝るしかありません(笑)。

服藤 いえいえ(笑)。読んでいて情景が鮮やかに映像で浮かんできましたよ。たとえば序盤の火事現場で、消火のホースが出てきたときに……。

堂場 ホースが道路上でうねり……と表現したところですね。

服藤 はい。私は火事現場に何度も行ったことがありますが、現場に向かうときによけながら歩かなきゃいけないんですよね。そういった情景を一瞬で思い出しました。あと、火事場って結構湿気があって、においも独特じゃないですか。そういった細かいところの描写力も素晴らしいと思いました。

堂場 私も記者時代に火事現場にさんざん行きましたから。

服藤 警察OBとして気になったところがあるとしたら、視点人物が観ている景色でしょうか。警察関係者って、事件に関連したものを見つけようという習性があるので、実は全体の情景って頭の中に残らないんですよ。

『赤の呪縛』(堂場瞬一 著)

堂場 なるほど。それは記者的な視点が入っているのかもしれませんね。ただ、個人的にすごく視野が広い刑事がいたらどうなるんだろうということに最近は興味があるんです。おっしゃる通り、普通刑事は余計なものを見ないようにするけど、それが見えちゃう人がいたらどうなるのかなと思って。

服藤 ああ、それは面白いですね。

堂場 主人公の刑事・滝上のように、上司に対して嘘の報告をして独自に動く人間というのはなかなか現実にはいないでしょうね。

服藤 いまはほとんどいないと思います。ただ、昭和の時代はいましたよ。上司に別の報告をしても、自分の考える方向に走って捜査をする人間が。そういう刑事は結果を出してくるんですよね。