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階級が上がると警戒される対象に

服藤 日本の社会って不思議で、ポジションが低いうちは軋轢が少ないんです。ただ立場が上になると、こちらはそう思っていなくても、自分のことをライバル視して邪魔をしてくる人間が出てくる。私は科学捜査官だったので、どちらかといえば捜査を指揮する人間のサポートができればと考えていましたし、だからこそ皆と同じ目的に向かって進めると思っていたんですが……。

堂場 想像ですけど、下にいるうちは「服藤って便利なやつだな」くらいに見られていたんだと思います。ただ、階級が上がっていくと警戒される対象になってしまった。特に警察官は人事をすごく気にする組織じゃないですか。

服藤 振り返ってみると、私自身にも問題があったと思うんです。良かれと思ってやってきたことですが、反発する人に対してもう少し丁寧に対応するべきだったなという場面が多々あって。

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堂場 そこで理系と文系の壁ってありませんでした?

服藤 ありましたね。

©石川啓次/文藝春秋

堂場 「名張毒ぶどう酒事件」の章を読んでそれを感じました。服藤さんは昭和36年に起こった事件の再審請求にかかわっていて、非常に熱心に取り組まれてましたよね。他の事件とは熱の入り方が違う感じがしました。その後の組織内での服藤さんの処遇も悲しいものでしたが、あの章では説明がかなり専門的になっていて、文系の人には伝わりづらかったんじゃないかと。僕も調べながら読みましたが、理解できたかどうか。

服藤 私もあの部分を読み直してみて、もうちょっと丁寧な書き方をしたほうが良かったなと感じました。

堂場 つまり、理系の方は数式で説明したほうが確実だし早いと考えるでしょうけど、文系の人間からすると「分かる言葉で言ってくれよ」という思いがどうしても出てしまう。そういった部分で壁があって、服藤さんがどれだけきちんと仲間に説明しても理解されにくかったんじゃないかと想像してるんです。

服藤 なるほど、そういう意味でしたか。

堂場 僕も小説の中で天才的な分析官を出してみたいと思うときがあるんだけど、必ず最後は数式を出さざるを得なくなる。でもそれを書くと、多くの読者にとって読みにくいものになってしまうんですよね。自分が理系の人間を書けるとしたらプロファイラーくらいかな。プロファイリングは一種の統計学だから数式があまり必要ないし。

服藤 そうかもしれませんね。日本の場合は地理的プロファイリングが一番伸びる可能性があると思っています。