堂場 本の中でも、同一犯と思われる事件が複数の場所で多発した際、現場を繋げてそこから等距離の地域に犯人が住んでいる可能性が高いと考えて実際に逮捕できたという話がありましたよね。あれは非常に面白かったです。
服藤 (笑顔で)それは良かった。
堂場 お話ししているように、『警視庁科学捜査官』の後半は、組織と人事のシビアな話がたびたび出てきますが、実は警察小説でその手の話って書きづらいんです。企業小説だと人事抗争の話が好まれるんだけど、公務員の場合は実像が外に出てこないこともあって、リアルなものを書くのが難しいと思います。分からないなりに公務員の人事をフィクションで描くとキャリア官僚同士の暗闘みたいな話になりがちで、現場の方の話はなかなか書けなかった。そういう意味でも、こういう形で経験を本に残して下さるのは資料的価値も含めてありがたいです。もちろんこの二十年くらいの科学捜査の最前線も分かりますし。
服藤 ありがとうございます(笑)。
堂場 これから理系の勉強をし直して、自分の小説に取り入れていければいいなと思いました。
服藤 少しでも科学捜査のことを知っていただけて嬉しいです。もう警察だけでは対応できない時代が来ていて、実際に警察は企業と協力して、捜査のための資機材やソフト、手法の開発などをやっているんです。私は既に現役の警察官ではありませんが、官と民が一緒になって共同で色んなことができるような仕組みづくりのお手伝いができればいいなと考えています。そのためにも思い切った情報の開示から始めなきゃいけないでしょうね。
堂場 今回のご執筆も、ある意味その一環なわけですね。
服藤 あとは漫画なりイラストを使った本なりで、子どもたちに鑑識のことなど警察の仕事について教えられないかと考えています。自分では描けないので、どなたかの力をお借りして。
堂場 さっき天才的な分析官を小説で書くのは難しいという話をしましたが、実は映像や漫画といったビジュアルで見せると分かりやすいんですよ。
服藤 そうですよね。今後チャンスがあれば映像などもぜひやってみたいです。
堂場 服藤さんのように、色んな困難な状況がある中で、それを変えていこうとする方がいらっしゃるので、僕はそういった姿をきちんと小説に残していきたいと思いました。僕は今年でデビュー20年なんですが、長く書くということはそれだけ時代に寄り添っていくということになる。テーマは変わっても、世の中の動きをちゃんと見て小説という形で記録に残していきたいですね。
服藤 楽しみにしています。
(初出:『オール讀物』2021年6月号)
どうばしゅんいち 1963年生まれ。2000年「8年」で小説すばる新人賞を受賞。警察小説の旗手として知られる。『赤の呪縛』など著書多数。作家デビュー20周年の記念イベントなどは公式サイトへ。
はらふじけいぞう 1957年生まれ。東京理科大学卒業。警視庁科学捜査研究所研究員を経て、初代科学捜査官に。著書に『警視庁科学捜査官』がある。