「児童相談所に連絡してみてはどうでしょうか」
二人をパソコンで遊ばせている間、晴彦はデスクで事務作業を行っていた。この日は夕方から高校の同級生の親の通夜に参列する予定だったため、それまでに用事を済ませる必要があった。
午後3時過ぎ、仕事が一段落した時、通夜まで少し時間があった。晴彦は手を休めて今後のことについてもう一度考えてみた。年末年始は恋と瑞貴の傍にいてあげられるが、三が日が明けてからは仕事の都合でそうできない日も増えるだろう。クリスマスパーティーで数分間目を離した隙にああいうことが起きたのを考えれば、それまでに恋を入院させておくべきだ。
晴彦は、かつて警察に恋の窃盗癖について相談した際に、女性警察官から「何かあればいつでも連絡ください」と言われたのを思い出した。彼女なら相談に乗ってくれるかもしれない。彼は電話を取り出し、署にかけた。
応対した警察官に、晴彦は言った。
「その節はお世話になりました。実は、6日ほど前にうちの妻が息子の首を絞めたんです。今後も、妻が虐待するかもしれません。それを防ぐために入院をさせたいんですが、どこかご存じのところはありませんか」
警察官は答えた。
「虐待案件でしたら、児童相談所に連絡してみてはどうでしょうか。無休でやっていますし、一時保護という形をとれるかもしれません」
「児童相談所には入所させたくないんです。それに年末年始は僕が二人を見るつもりです。妻の病気を治すことが必要だと思っているので、医療機関をご紹介いただけないでしょうか」
「そういうことでしたら、病院をご紹介しますので、旦那様の方から連絡してみてください」
警察官はそう言って、病院を紹介してくれた。晴彦はお礼を述べて電話を切り、病院へかけた。
病院では、看護師が対応に出た。晴彦は恋に解離性障害、記憶障害、窃盗癖があることを話した上で、クリスマスパーティーでの一件を説明して、できるだけ早く入院させてもらえないかと頼んだ。
看護師は答えた。
「入院するには、院長と話していただかなければなりません。ただ、本日は院長が不在なので、明日お越しいただくことは可能でしょうか」
「わかりました。院長先生が了解すれば、すぐに入院できるんですね」
「そういうこともありえると思います」
電話を切った時、晴彦は、これでうまくいく、と胸をなでおろした。先行きの見えない暗闇に光が射したような気持ちだった。