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実母に性行為を見せつけられ、黙って喘ぎ声を聞いていた…息子を殺した母親が幼少期に受けた“性的虐待”

『近親殺人―そばにいたから―』より#2

2021/06/17

genre : 社会, 映画

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娘が邪魔になって友人に預けた母親

 実家に暮らす恋の祖父母は、愛子が唐突に赤ん坊を連れて帰ってきたことに驚きを隠しきれなかった。愛子は説明という説明もせず、祖父母に恋の世話を押し付けて、自分は夜遊びをするなどしたい放題だった。さすがに祖父母が堪忍袋の緒を切らして注意したところ、愛子は「めんどくさい」とばかりに恋を抱いて実家を出て行った。

 愛子が再び実家にもどってきたのは、一年ほど経ってからだった。小言を言われるのが嫌で自分で何とかしようとしたものの、育児がうまくいかずに頼ってきたのだ。だが、この時も祖父母とぶつかり、愛子は恋を抱いていなくなった。

 祖父が心配して捜し回ったところ、愛子は恋を友人の家に預け、自分は別の男の家に転がり込んでいた。男と同棲するのに、恋が邪魔になって友人に預けたようだ。

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 祖父はこれでは恋があまりにかわいそうだと思い、その友人に言った。

「愛子が面倒を見ないなら、私たちに恋を引き取らせてくれませんか」

 友人は冷たく言い放った。

「私が頼まれて預かっているので、勝手に渡すわけにいきません」

 祖父はそれ以上強く言うこともできず、後ろ髪を引かれるような気持ちで立ち去った。

 この友人の家で、恋がどのような日々を過ごしていたのかはわからない。おそらく厄介者として邪険に扱われ、愛子が会いに来ることもほとんどなかったのだろう。1歳だったため、恋自身にも記憶がない。

 実家を頼って、愛子が三度目にもどってきたのは、さらに1年が経ってからだった。友人からこれ以上恋の世話をできないと言われて突き返されたという。愛子は祖父母に言った。

「私、男の人と別のところに住んでいるの。だから、この子の面倒は見られない。代わりになんとかして」

 その言葉にはあきれ返るしかなかったが、断ったところで犠牲になるのは恋だ。それなら自分たちの手で育てた方がいい。

 祖父は言った。

「わかった。恋を置いていきなさい。私が世話をするから」

 引き取って自分が親代わりになることにしたのである。

 この頃のことを祖父は次のように振り返る。

「愛子は恋に対して冷ややかでした。彼女はいつも男を連れていたので、恋のことが邪魔だったんでしょう。恋はかわいそうな子でした。私は、愛子の代わりに愛情をかけて育てようと決めました。恋には父親がいませんでしたから、私が父親になってあげようと、公園や釣りに連れて行ったりしました。よく肩車とか追いかけっこをした記憶があります」

 祖父が愛情を注ぐ一方で、愛子が実家に来るのは1年で数えるほどだった。恋は自分を育ててくれる祖父母を「パパ」「ママ」と呼ぶ一方で、たまに会う愛子のことは「ネネ」と呼んで距離を置いていた。