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実母に性行為を見せつけられ、黙って喘ぎ声を聞いていた…息子を殺した母親が幼少期に受けた“性的虐待”

『近親殺人―そばにいたから―』より#2

2021/06/17

genre : 社会, 映画

章介と愛子は恋に性行為を見せつけて楽しんでいた

 やがて章介は恋に対して性的虐待を行うようになる。そのことを、恋は次のように語る。

「部屋で静かにしていると、あの人がやってきて私の足首を掴んで股を開いて足でいやらしいことをされました。すごく恥ずかしかったです。

 また、寝室が同じだったので、私が寝ているそばで、あの人と母がセックスをすることもありました。私が起きているのをわかっててやるんです。

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 初めの頃、私は二人が何をしているのかわからなくて、母の大きな声が悲鳴のように聞こえました。それでいじめられていると思って、『やめて!』と叫んだんです。でも二人は無視してセックスしていました。

©iStock.com

 セックスの意味がわかってからは、私は同じ部屋で二人がはじめても黙っていることにしました。眠っているふりをしている時もあれば、黙ってよそを見ているだけのこともありました」

 章介と愛子は恋に性行為を見せつけて楽しんでいたようだ。たまに恋を連れてラブホテルへ行き、広いダブルベッドでセックスをはじめた。その間、恋はソファーや浴室で黙って二人の喘ぎ声を聞いていなければならなかった。

 中学に進学した頃、恋の胸の内では愛子と章介に対する憎しみが爆発寸前まで膨らんでいた。彼女は3歳年上の先輩と交際をはじめると、実家から飛び出して彼の家で寝泊まりするようになった。その家には、彼氏の両親や兄弟も住んでいたというが、家出同然の少女を家に泊めて平然としているくらいなので、普通の家庭ではなかったのだろう。それでも恋にしてみれば、親から逃げられるだけで満足だった。この頃にはすでに万引きをはじめていたものと思われる。

 中学卒業後、恋はガソリンスタンド、カラオケのアルバイトを経て、水商売の世界に入った。学歴も、親の支援もない彼女にとって、そこが数少ない稼げる場だったことは想像に難くない。

 だがこの時、小学時代からつみ重ねられてきたトラウマは、恋の心をボロボロにし、人格や常識を大きく歪めていた。警察の記録によれば、窃盗癖に加えて、パニック障害、虚言癖もはじまっていたようだ。そうした中で、彼女は27歳までに二度離婚し、子供の親権も前夫に渡していた。

 そんな彼女がインターネットで出会ったのが、50歳の晴彦だったのだ。晴彦は恋の過去をほとんど知らなかったが、一緒に暮らしはじめて心の闇に気がついた。落ち度があったとすれば、その時点できちんと彼女の抱えている問題を直視せず、なんとかなると高をくくっていたことだ。