自白している被告人の保釈率は31.6%。否認している被告人の保釈率は28.5%。さらに、自白した被告人の場合26.1%が第1回公判期日の前までに保釈されるのに対して、否認した被告人の場合、公判前に保釈されるのは11.9%にすぎない。そして、第1回の公判開始までには、1年以上かかることも珍しくない――。これまでに発表されたデータを振り返ってみると、「自白」をしている人と、そうでない人とで、保釈される確率・期間に大きな開きがあることは明白だ。
こうした不公平はいったいなぜ生まれてしまうのか。そして、自白が暗に強要されているともいえるこうした状況は果たして公正な司法と言えるのだろうか。ここでは、カルロス・ゴーン氏の担当弁護士を務めた高野隆氏による著書『人質司法』(角川新書)の一部を抜粋。日本の司法が抱える問題点について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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最高裁判所事務総局が毎年公表している統計(司法統計年報)によると、全国の地方裁判所や簡易裁判所に起訴(公判請求)される人は、毎年5万5000人くらいいます。このうち身柄拘束された状態で起訴される人は約4万人です。そして、この4万人のうち、保釈が認められて釈放される人は1万2000人(30%)ということです。(*1)しかし、この統計はわれわれが一番知りたいことを教えてくれません。それは、「自分はやってない」と言って無罪を主張する被告人はどれくらいの割合で保釈が認められるのか、ということ。そして、保釈されるまでどれくらいの期間勾留されるのか、ということです。
*1 最高裁判所事務総局編『司法統計年報(刑事編)平成30年版』第32表
統計によると起訴された約5万5000人のうち5万人は有罪を認めており、否認している被告人は5000人です。(*2)しかし、この5000人のうち、何人が身柄拘束されているのかに関する統計は見当たりません。また、否認している被告人のうちどれくらいの割合が保釈を認められているのかということもわかりません。「保釈率30%」というのは、罪を自白している人も合わせた数字です。さらに、司法統計はどのタイミングで保釈が認められたのかを明らかにしていません。起訴から判決言い渡しまでのどこかで保釈が認められた人が30%いるというだけです。起訴の当日に保釈されたのか、起訴から1年たって保釈されたのか、同じ保釈と言っても被告人本人やその家族にとってこの差は天地ほどもあるでしょう。しかし、この国の裁判所はそうした情報をわれわれに与えてくれません。
*2 正確に言うと、総数5万4862人、自白4万8823人(89%)、否認4846人(8.8%)、その他1193人(2.2%)です。最高裁判所事務総局編・前注、第25表
最高裁の内部資料が示す驚きの実態
最高裁事務総局が「会内限り」という限定付きで日弁連に秘密裏に提供した統計資料(*3)があります。これによると、2018年に終結した通常第1審(全国の地方裁判所と簡易裁判所に検察官が起訴(公判請求)した事件)において、勾留人員(3万6957人)に対する保釈人員(1万1372人)の割合は30.8%です。自白している被告人(3万2258人)の保釈率は31.6%(1万200人)であるのに対して、否認している被告人の保釈率は28.5%(3952人中1128人)です。約3%の違いですから、大した差ではないと思うかもしれません。
*3 「機密性2」と注意書きされた資料で昭和40年(1965年)から平成30年(2018年)までの勾留率や保釈率などに関する統計資料が綴られている。