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無実を主張すると保釈の確率が激減? 芸能プロダクション社長(42)が体験した“日本の司法”の“深い闇”とは

『人質司法』より #1

2021/06/11

genre : 社会, 読書

note

否認事件の場合、10人のうち7人以上は裁判が終わるまでずっと勾留されたまま

 弁護人が証拠開示を受けて、その内容を検討し、こうした書面(「証拠意見書」や「予定主張記載書」などと呼ばれるものです)を提出できるのは、公判前整理手続がかなり進んでその終結が見えてきた頃にならざるを得ません。どうしても、起訴から半年とか1年近く経過した後になってしまうのです。これが「第1回公判期日の前」の実質的な意味です。要するに、否認事件の場合、起訴の直後に保釈が認められるケースはほとんどないのです。

 しかし、思い出してください。否認事件で保釈が認められるのは28.5%に過ぎないということを。10人のうち7人以上は、裁判が終わるまでずっと勾留されたままなのです。弁護人が様々な書面を出して、被告人による証拠隠滅の可能性がないことを説明しても、また、長期勾留による健康上の問題や生活上の問題を縷縷(るる)述べても、7割の被告人は警察の留置場や拘置所に拘禁されたまま刑事裁判を受けるのです。

300日の拘禁で失われたもの──芸能プロ社長のケース

 参考までに私が過去に弁護人として関わったケースを紹介します。

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 山田和也さん(仮名)は、都内のマンションを事務所にして、芸能プロダクションを運営する42歳の男性でした。2010年11月1日夜、自宅近くの繁華街で酒に酔った57歳の男性に「ぶっ殺してやる」などと因縁をつけられたあげく、殴る蹴るの暴行を執拗に受けました。たまらずに山田さんが1発繰り出したパンチが相手に命中し、男性はアスファルトの路上に転倒しました。その際、男性は後頭部を路上に激しく打ち付け、そのまま意識が戻らず、救急搬送先の病院で亡くなりました。死因は急性硬膜下血腫というものです。山田さんは傷害致死の容疑で逮捕・勾留され、11月22日に起訴されました。

 勾留満期の直前に、当時私の事務所に勤務していた趙誠峰(ちょうせいほう)弁護士と私が彼の弁護人に就任しました。われわれが弁護人になる前に、すでにかなりの量の供述調書が作成されており、山田さんは捜査官に言われるままにそれに署名してしまっていました。われわれは正当防衛の主張とともに、山田さんの暴行と男性の死亡との間に因果関係がないとして無罪の主張をしました。われわれの調査で、男性が特発性血小板減少性紫斑病という難病にかかっていたことが判明し、その病気のせいで脳の出血が発生した可能性が高いと主張したのです。