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無実を主張すると釈放の可能性が激減

 しかし、保釈が認められたタイミングを見るとその差は歴然としています。自白した被告人の場合26.1%(8406人)が第1回公判期日の前までに保釈されるのに対して、否認した被告人の場合、公判前に保釈されるのは11.9%(471人)にすぎません。つまり、「私は罪を犯していない」と言って無実を主張している被告人の10人に1人しか、公判開始前に釈放されないということです。

 さて、「公判開始前」とはいつでしょうか。言い換えると、起訴されてからどのくらい経ったら釈放されるのでしょうか。公表されている統計も「会内限り」資料も、この点については何も語りません。一般的に自白事件の第1回公判は起訴後1~2ヶ月の間に開かれ、1時間で終わります。そして、その2週間後くらいに判決が言い渡されます。これに対して、否認事件では第1回公判の開始が遅くなります。否認事件の被告人側の公判準備でもっとも重要なのは、証拠開示(ディスカバリー)です。検察側は、捜査機関が集めた証拠の中から、被告人の有罪を立証するのに必要な証拠しか取調べ請求しません。弁護側はそれ以外の証拠を見せるように検察官に要求しますが、検察官は原則として自ら取調べを請求しない証拠を弁護人に見せる義務を負いません。しかし、事件が「公判前整理手続」(公判を開く前に当事者双方に主張と証拠のリストを提出させて、争点を整理しておいて、公判を迅速に進めようという手続)に乗せられた場合には、弁護側は検察官手持ち証拠の中から一定の類型に当てはまるものを事前に入手できるのです。ですから、「私はやってない」と無実の訴えをする依頼人にとって、まともな弁護活動をしようと思えば、弁護人は公判前整理手続を求めて、できる限り多くの証拠を獲得しようとするのです。

起訴から公判開始に1年以上の月日がかかることも

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 しかし、公判前整理手続で行われるのは証拠開示の手続だけではありません。双方が公判廷で行う予定の主張を書いた書面を出したり、公判で取調べる予定の証拠の取調べを請求したりします。この公判前整理手続が終結してしまうと原則として新しい証拠の取調べ請求ができなくなるので、いきおい、双方とも証拠請求に漏れがないか慎重を期することになります。こうして否認事件の公判前整理手続は非常に長くかかります。1年以上かかることは珍しくありません。要するに何が言いたいかというと、否認事件では「第1回公判期日の前」というのは、起訴から1年以上経ったあとのことかもしれないということです。