巨額の役員報酬を実際よりも少なく見せかけていたとして金融商品取引法違反容疑で逮捕されたカルロス・ゴーン氏。彼の担当弁護士を務めた高野隆氏は、日本の司法における被告人の身柄の取り扱いには大きな問題があると指摘する。

 ここでは同氏の著書『人質司法』(角川新書)の一部を抜粋。世界中で日本だけが認めている被告人の「あらゆる社会的なコミュニケーションを一律に禁止する」制度をはじめ、日本の司法の特殊過ぎる実態について取り上げる。(全2回の2回目/前編を読む)

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世界に例を見ない制度

 刑事訴訟法81条は「裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第39条第1項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる」と定めています。この条文に基づいて、毎年約3万5000人──勾留された人の4割──が、警察の留置場に拘禁されたうえ、配偶者、親戚、友人、知人と会うことも手紙のやり取りをすることもできない状態に置かれています。

 この決定(「接見等禁止決定」)の要件である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、「被告人が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならない」と言われています。(*1)拘禁施設での弁護人以外の人との面会には施設の職員が立ち会い、職員は面会の内容を記録し、録音したり録画したりすることになっています(刑事収容施設法116条1項)。そして、被告人やその面会の相手方が「暗号の使用その他」によって職員が理解できない発言をしたり、「罪証の隠滅の結果を生ずるおそれのある」発言をしたりしたときは、職員はその発言を制止しまたは面会を停止することができます(同法117条、113条)。また、被告人が発信したり受け取ったりする信書については、刑事施設の職員が検査をすることになっていて(同法135条)、その信書が「罪証の隠滅の結果を生ずるおそれ」があると判断するときは、職員はその発受を禁止したり、該当箇所を抹消したり削除したりすることができることになっています(同法136条、129条)。

*1 京都地決1968・6・14判タ225-244、浦和地決1991・6・5判タ763-287