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証拠隠滅の“おそれが否定できない”だけで「接見禁止」に…日本で杓子定規の“人質司法”が横行する異常な理由

『人質司法』より #2

2021/06/11

genre : 社会, 読書

note

 この被告人はテキサス出身の30代前半の若者でしたが、接見禁止状態がいつまでも続くなかで抑うつ状態になりました。われわれが接見に行くたびにやつれた表情で目に涙を溜めて、自殺をほのめかすまでになってしまいました。幸い、その後保釈が認められ、最終的には無罪判決を得て、いまでは元気に活躍しています。しかし、日頃どんなに快活に暮らし、自殺とは全く無縁な生活をしている人でも、接見禁止状態はその精神に計り知れないダメージを与えるものなのです。日本の裁判官は、接見禁止制度のそうした側面を、ほとんど全く理解していないのではないかと思うことがあります。

©iStock.com

 私の知る限り、家族との面会を含めあらゆる社会的なコミュニケーションを一律に禁止することを認めている国は、日本以外に存在しません。それは、受刑者を含め被拘禁者の外部交通を一律に禁止すること(incommunicado)は、表現の自由や人との交際の自由という基本的人権を侵害するものであり、たとえ「適正な刑事手続のために必要だ」というような正当な目的のためであっても、それを行うことは非人道的であるということが理解されているからだと思います。日本の裁判官には、この人間の尊厳にとってもっとも基本的な権利──人が人であるために必要な最低限の条件──についての理解が足りないのではないかと思います。
 

【前編を読む】無実を主張すると保釈の確率が激減? 芸能プロダクション社長(42)が体験した“日本の司法”の“深い闇”とは

人質司法 (角川新書)

高野 隆

KADOKAWA

2021年6月10日 発売

証拠隠滅の“おそれが否定できない”だけで「接見禁止」に…日本で杓子定規の“人質司法”が横行する異常な理由

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