検察官の接見禁止請求書やその請求を裏付ける一件記録という書類は、検察官と裁判官だけが共有するのです。被疑者もその弁護人もその内容を見ることができません。裁判所に閲覧請求をしても「弁護人に閲覧を認める法的根拠がない」などと言って門前払いされます。裁判官はこの一件記録を執務室で読んで接見禁止の要件──警察の留置場や拘置所に身柄拘束をしただけでは防ぎきれないほどの強度の証拠隠滅や逃亡のおそれがあるか──を判断するのです。
そして、この審査は全くの非公開で行われます。法廷で双方の意見を聞いたり証人を尋問したりすることも行われません。それどころか、裁判官は被疑者に会うことすらしません。勾留のために、裁判所の一室で被疑者に会って被疑事実についての「弁解」を聞きますが、それは勾留や接見禁止の審査のために行うものではありません。要するに、被疑者やその弁護人には検察官の接見禁止請求に対して、反論の機会は全く与えられず、適切な反論を行うために当然必要な証拠へのアクセスすら与えられないのです。つまり、検察官と裁判官の間だけで行われる秘密の資料のやり取りで、被疑者のコミュニケーションの自由を全面的に奪う決定がなされるのです。
あまりに漠然としている理由
第二に、法律が定める接見禁止の要件──「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」──が、非常に漠然としていて具体性を欠いていることがあげられます。しかも、どの程度の危険性があれば接見禁止を認めてよいのかも、明らかではありません。
先ほど引用したように、1968年の京都地裁の決定は「被告人が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならない」(強調は引用者)と言っています。そのケースでは被告人が暴力団と「つながり」がある人物であり、逮捕される前に被害者に「このことは取り下げろ」と脅して罪証隠滅工作をしたという事実があったとしても、「被告人らがかつて、そのような行為に出たことの一事をもって、現に勾留されている被告人らに右と同様な行為による罪証隠滅工作をする疑いがあると即断することはできない」として、接見禁止を否定しました。(*3)
*3 京都地決1968・6・14判タ225-244、245頁