しかし、このように厳格に考えている裁判官はもはや存在しません。現在の主流派裁判官は、接見への立会いや信書の検査をかいくぐってどのような仕方で証拠隠滅を図るのか、京都地裁がかつて言った「相当強度の具体的事由」を何一つ明らかにできなくても、証拠隠滅の「おそれが否定できない」という程度のことで接見禁止を肯定します。具体的な証拠が何もないのに、「被疑者の供述態度」(事実を否認しているとか黙秘しているということ)や「事案の性質」(共犯者がいるとか組織的な犯罪であるとか)ということだけで、接見禁止決定をする裁判官も少なからずいます。
基本的人権を理解できていない裁判官
さらには、公訴が提起され裁判が始まった後までも、「被告人の無罪主張の詳細が明らかになっていない」という理由で接見禁止を肯定する裁判官もいます。たとえば、私が事務員として雇い入れることで保釈が認められたアメリカ人青年のケースでは、起訴後に保釈請求をしましたが、何度やっても却下されてしまい、さらに、検察官の請求で第1回公判期日後も、接見禁止が付されてしまいました。この決定に対して抗告を申し立てましたが、東京高裁はたったのワン・センテンスで私どもの申立を棄却しました。以下に引用しましょう。
本件事案の性質及び内容等に加え、争点と考えられる共謀や覚せい剤を所持する意思の有無について、当事者双方の具体的な主張が明らかでないなどの審理状況をも踏まえると、被告人に自由な接見等を許せば、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして、第2回公判期日終了まで上記の接見等を禁止した原決定の判断は、接見等禁止の対象から[勤務先の上司]を除外しなかった点を含め、刑訴法81条の解釈を誤った不当なものであるとまではいえない。(*4)
*4 東京高等裁判所第三刑事部2019年2月5日決定(未公刊)
接見禁止をした公判裁判所も、これを是認した東京高裁の裁判官も、この事件の被告人が、接見や手紙の授受を通じて──職員による監視や検閲をかいくぐって──誰とどのような証拠をどのように隠滅する「相当な理由」があるのか、何一つ明らかにしませんでした。ここであげられている勤務先の英会話学校の上司と面会することが、どうして証拠隠滅につながるのかも示されていません。ただ一つ明らかなのは、無罪を主張している被告人は、無罪の理由を具体的に明らかにして争点を絞り、検察官の立証活動を容易なものにしなければ、家族や会社の上司や友人、知人と会ったり手紙のやり取りをしたりできなくなるということです。