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無実を主張すると保釈の確率が激減? 芸能プロダクション社長(42)が体験した“日本の司法”の“深い闇”とは

『人質司法』より #1

2021/06/11

genre : 社会, 読書

保釈のために放棄される被告人の権利

 問題は時間だけではありません。罪を争う被告人には憲法上も法律上も様々な手続上の権利が保障されています。それは世界人権宣言や国際人権規約が保障する文明国としての最低基準でもあるのです。しかし、わが国の保釈制度は、実際には、こうした基本的な権利を無効化する仕組みとして運用されているのです。どういうことか説明しましょう。

 たとえば、刑事被告人には検察側の証人を公開の法廷で尋問する(これを「反対尋問」といいます)権利が保障されています(憲法37条2項)。しかし、裁判官は、被告人が検察側証人を威迫したり口裏を合わせたりして「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と言って、検察側証人の尋問が終わるまで保釈を認めないことが多いのです。そこで、被告側は、保釈を獲得するために、検察側証人に対する反対尋問の権利を放棄して、捜査官がまとめた証人の供述調書の取調べに同意するのです。こうすることで、証人尋問は行われないので、「口裏合わせ」とか「証人威迫」の心配はなくなりますから、保釈を認めてもらいやすくなるというわけです。

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 もう一つ「保釈のための権利放棄」の例をあげましょう。検察官が起訴した犯罪のすべての要素について「合理的な疑問を入れない程度に」立証を尽くさない限り、有罪とされない、被告人には無罪を証明する必要はないというのが刑事裁判の鉄則です。しかし、この権利を放棄して、なぜ無罪なのかを詳細に説明したり、検察官の主張する状況証拠に対する「認否」(争うのか、争わないのかの態度)を明示する書面を提出しなければ、裁判官は保釈を認めないのです。この書面によって事件の争点と証拠を絞り込むこと──言い換えると検察官の負担を軽減すること──をしないと、必ず、検察官は「被告人は検察官請求証拠に対する意見を明らかにせず、争点を明らかにしないから、罪証隠滅の高度の危険性がある」などと言って保釈に反対します。そして、裁判官は検察官の反対意見を入れて、保釈を却下するのです。