起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第57回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

由紀夫死亡の数時間後には解体作業を開始

 1996年2月26日に、福岡県北九州市の不動産会社員・広田由紀夫さん(仮名)が、松永太と緒方純子による虐待の結果、同市にある「片野マンション」(仮名)30×号室で死亡すると、松永と緒方は、由紀夫さんの娘で小学生の清美さん(仮名)を同席させ、和室で飲酒をしながら話し合いをした。

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 そこでは、松永が由紀夫さんの死体の解体について切り出している。詳しい状況について、福岡地裁小倉支部で開かれた公判での判決文(以下、判決文)には次のようにある。

〈松永は、甲女(清美さん)に対し、「病院に連れて行けば助かるかもしれないけど、甲女が噛み付いた痕があるから甲女が警察に捕まるので、病院には連れていけない。」、「あんたが掃除しよるときにお父さんの頭を叩いたから、お父さんは死んだんだ。」などと言い、甲女を困惑させた。松永は、「バラバラにして捨てるしかないな。」、「まず血抜きをしよう。」などと提案し、その結果、由紀夫の死体は解体して処分することになった〉

 その際、松永は死体の解体方法について書かれたマニュアル本を参考にしていたようだ。同公判での検察側の論告書(以下、論告書)はその点に触れている。

〈被告人両名(松永と緒方)は、由紀夫の死体を浴室へ運び込むと、和室で酒を飲みながら「××」(書籍名)などの本を参照しつつ死体の解体方法を決め、由紀夫死亡の数時間後には血抜き作業に着手し、解体作業を開始した〉

 緒方と清美さんが由紀夫さんの解体作業をすることになったが、その際に松永は2人に解体の方法と手順について、細かく指示を出した。また、最初に血抜き作業をする際、松永は清美さんにも包丁を握らせ、緒方と一緒に死体に切り込みを入れさせている。

写真はイメージ ©iStock.com

 解体を実行する前に松永から出された注意点について、公判のなかで緒方は証言する。

「松永は由紀夫さんの死体を解体するにあたり、私に『なんで死んだのかよく分からないから、どこが悪いのかよく見ておくように』、『死因がなんであるか探る意味で、きちんと脳等をみるように』などと指示しました」

 さらに緒方は、実際の解体作業で見た、由紀夫さんの脳がどのような状態であったかについても言及している。