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なにもかも異様な光景だった「片野マンション」の室内

 同論告書では浴室内の状況のみならず、「片野マンション」の室内の様子についても検証結果が明かされているため、少々長いが併せて記しておく。

〈玄関ドアのドアスコープには内部から鍋敷きが掛けられている上、郵便受けには段ボール等で目張りがされており、外部から中をのぞき見ることは不可能である。また、室内の窓のほとんどは遮光カーテンが張られ、明かりが外に漏れないようにされている。人目を避けねばならない逃亡中の身であった被告人両名が、在室していることを外部の人間に知られないように警戒していたことがうかがわれる。

 

「片野マンション」の室内では多数の南京錠・シリンダー錠等が発見されている。また、台所から洗面所に通じるドアには台所側から掛け金が取り付けられ、洗面所からトイレ及び浴室に通ずるドアの双方にはそれぞれ洗面所側から掛け金が取り付けられている。浴室内の窓には通常のクレセント錠に加え、補助錠を取り付けていた形跡も認められる。これらの掛け金は、その設置状況から、浴室あるいはトイレに何者かを閉じ込めるためのものと認められ、由紀夫が浴室内に閉じ込められていたとする甲女の供述とよく合致する。

 

 南北和室と台所を結ぶ4枚のガラス戸はすべて南京錠で施錠され、解錠しなければ台所側から和室に入ることができない。この点、台所側には生活感が感じられないのに対して和室内には雑多な物品が認められること、和室の掃き出し窓には補助錠等による施錠がなされた形跡がないことから、これらの施錠は、被告人両名の不在中に和室内へ他者が立ち入ることを防ぐためのものと推認される。(略)

 

 また、「片野マンション」では、多種多様な工具類に加え、芳香剤、空のペットボトル、洗剤がいずれも多数発見押収されている。甲女は、由紀夫や緒方一家の死体解体に際して、解体中の悪臭を消すための芳香剤や、肉汁を詰めるためのペットボトル、そして解体後の証拠隠滅に用いる洗剤等についても詳細な供述をしており、これらの押収品は甲女の供述ともよく合致する〉

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

 こうした詳細な状況を知るにつれ、以前に記したが、家宅捜索でこの部屋に初めて足を踏み入れた捜査員の回想が思い起こされる。

「部屋に入った捜査員全員が愕然とした。生まれて初めて霊感のようなものを実感したよ。本当に恐ろしかったんだ。部屋に入ってまず感じたのは、明らかに人間の血の臭いだった。部屋の片隅には消臭剤が大量に積まれていて、血の臭いを消すためだとすぐに想像がついた。風呂場やトイレ、部屋など、あらゆるドアに7、8個の南京錠がかけてあって、窓には全部つっかえ棒が釘打ちされていた。それはもう、なにもかも異様な光景だった」(第58回に続く)