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完璧な死体遺棄と証拠隠滅

 ここで出てくる「水葬」の表現はさておき、このようにして由紀夫さんの遺体は完全に処分されてしまったのだ。そのことについて、論告書では次のように断罪する。

〈被告人両名は、由紀夫死亡後、わずか数時間後には死体解体・処分の作業に着手している。その死体処理の徹底ぶりは、まさしく我が国の犯罪史上例を見ないほどに完璧なもので、ついに由紀夫の遺体はその一部たりとも発見されるに至っておらず、その後、犯行後6年余りを経て、甲女が被告人両名の下から逃走したことによって、ようやく完全犯罪となることを免れたほどである〉

 このような完璧な死体遺棄を行ってもなお、松永は解体後の証拠隠滅を気にかけていたようだ。論告書は明かす。

〈解体終了後、松永は、甲女に命じて、「片野マンション」の浴室や台所を中心に何度も掃除機をかけ、浴室内も洗剤で何度も磨き上げさせた。松永は、甲女に対し、掃除機も念入りに掃除しておかないと、警察に捕まったときに証拠になりかねないと指示して、掃除機の中まで水拭きさせ、さらに、掃除機の紙パックに溜まったゴミも他のゴミといったん混ぜた上で捨てさせていた。

 

 松永は、浴室のタイルも、何度も強い洗剤で磨き洗いをするよう命じたし、タイルが浮いていた部分は、下に血が残っているかもしれないなどと気にしており、後日、隆也(仮名=後に殺害される緒方の妹の夫)に命じてタイルの張り替えをさせたこともあった。

 

 さらに、松永は、由紀夫に作成させた各種の念書や、由紀夫の着衣などをシュレッダーにかけるなどして処分した〉

写真はイメージ ©iStock.com

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 その後、緒方の親族の6人が解体されることになるこの浴室について、松永らの逮捕後に行われた検証結果が論告書では紹介されている。

〈「片野マンション」の浴室洗い場の床には、タイルを貼り直した痕跡があり、貼り直された部分以外についても、床タイルの目地がそげ落ちるように痩せていること、その原因としては、サンポールなどの酸性の溶剤で何度も磨き洗いをしたと考えても矛盾がないことなどが認められ、かかる客観状況は、由紀夫殺害・解体の痕跡を徹底的に消し去るべく、松永は周到に罪証隠滅工作を命じていたとする前記甲女の供述要旨とも良く整合する〉