起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第58回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

お金に窮するようになった松永と緒方

 福岡県北九州市の不動産会社員・広田由紀夫さん(仮名)を、監禁状態に置いてから殺害・解体に至った時期と並行して、松永太はある女性を騙そうとする工作を始めていた。

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 その女性は同市に住む主婦の原武裕子さん(仮名)。由紀夫さんの中高時代の同級生の妻であった裕子さんに対し、松永は自身を京都大学卒の塾講師と偽って1995年8月に接近。彼女の悩みを聞くなどして籠絡し、96年2月の由紀夫さんの死亡から間もない同年4月に、裕子さんは夫と離婚したのだった。

 その後、裕子さんは由紀夫さんの死亡によって“身軽”になった松永らと同居することになり、根こそぎカネをむしり取られたうえ、虐待の被害を受けて97年3月16日に、監禁先のアパートから命からがら逃走する。その経緯については本連載の第15回第16回に詳しいため、ここでは割愛する。

写真はイメージ ©iStock.com

 この裕子さんの逃走を受け、松永と緒方純子は彼女を監禁していた同市小倉南区のアパートを慌てて引き払い、同時期に借りていた小倉北区にある「東篠崎マンション」(仮名)90×号室に2人の子どもを連れて移り住む。また、由紀夫さんの娘で、間もなく中学に入学することになっていた清美さん(仮名)は、由紀夫さんが死亡した小倉北区の「片野マンション」30×号室に住むことを命じられ、「東篠崎マンション」との間を行き来させられていた。

 こうした複数の住居の家賃を合算すると月に15万7000円。さらに、殺害した由紀夫さんが生きているように偽装するため、彼が前の勤務先の同僚にした借金を、毎月7万円肩代わりする必要があった。それらに加え、清美さんの進学費用、松永の酒代や電話代ほか、生活費にもかなりの額を要したことから、松永と緒方は、たちまち毎月の資金繰りに窮するようになった。