執拗に金策を迫った松永
裕子さんが逃げ出す前から、松永は緒方に対してもたびたび通電の虐待を行っており、その回数は10回前後に及ぶ。裕美さん逃走後の緒方に対する要求について、緒方弁護団による弁論要旨には、〈松永は緒方に金策するよう執拗に求めた。緒方が150万円を作れば、自分は出てゆくとまで言って金策を迫った〉とある。
だが緒方にとって唯一のカネを作る手段といえた、和美さんからの送金までもが途絶えてしまったことで、彼女の金策は困難になった。そこで松永は新たな企みを思いつく。判決文には以下のようにある。
〈松永は、そのころから、和美からは多額の金を引き出すのは難しいが、孝(仮名=和美の夫)を取り込めば、更に多額の金を手に入れることができるのではないかと考えるようになった。そこで、松永は、緒方に指示して、和美に「片野マンション」の家財道具を和美名義で質店に売却させた上、孝に対し、「和美が他人の家財道具を勝手に売却したことは窃盗等の犯罪になるので、和美は警察に逮捕されるかもしれない。」などと申し向けて孝を不安に陥れれば、孝はその解決のために松永に金を出すだろうなどと考えた〉
その結果、松永は緒方に指示して、同年3月30日に和美さんを「片野マンション」に呼び出して計画を実行したのである。論告書は当該質店への捜査の結果を明かす。
〈関係証拠によれば、平成9年3月30日、和美が福岡県古賀市内の××質店に質入れをし、7万7000円を得ている事実が認められるところ、この質入れが松永の指示によるものであったという点では争いがない。また、その質入れ品が、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの生活必需品を含むこと、質入れ日が和美からの最終送金日の直後であることなどから、当時の被告人両名の窮状は明らかである〉
ただし、この質入れについて、松永が孝さんに金銭を要求するまでには至らなかった。というのも、その後すぐに緒方を巡って、新たな問題が起きてしまうのだ。
緒方は和美さんによる家財道具の質入れから間もない4月7日、和美さんを「片野マンション」に呼び出した。そして、松永に言われていた150万円を貸してもらえないかと頼んだが、断られてしまう。その後の緒方の行動について、判決文は触れている。