「前橋」にあるもうひとつのターミナル
だが、こうした駅は他にもいくつもあって、町が発展すると駅前もずいぶんな賑わいをみせるようになるものだ。なのに、前橋はそうではない。いったいどうしてなのか。
前橋にはもうひとつのターミナルがある。ターミナルと呼ぶには規模が小さいが、私鉄の上毛電鉄の始発駅・中央前橋駅だ。中央前橋駅はその名の通り、前橋の中心市街地に近い。JR前橋駅からは歩いて約15分。ケヤキ並木を歩いていけばたどり着くので迷うようなことはない。が、せっかくなのでちょっと寄り道をして市街地の中を歩いてみた。
すると……平日の日中だからかコロナ禍だからか、そのあたりはわからないがとにかく閑散としている。前橋駅前よりさらにうら寂しい。歩いている人はたまにはいるが、活気がある繁華街とはほど遠い。
実は、群馬県は全国屈指の自動車県だ。1世帯あたりの自動車保有台数は全国4位の約1.61台。ちなみに最下位は東京の0.42台だ。東京からさして離れていないのに、群馬までやってくると鉄道よりも圧倒的にクルマ優位の社会になっている。
そうなれば、人が集まるのは駅前や駅に近い古くからの繁華街ではなく郊外の大型店舗。鉄道を使うのは免許を持たない学生たちが中心になり、結果として駅前や繁華街は規模が小さくなってしまう、というわけだ。
前橋と高崎、双子のような2つの都市
だから前橋駅前や繁華街のさみしさは、決して前橋という町そのものが廃れていることを表しているわけではない。鉄道だけで旅をしているだけでは前橋の本質はまったく見えないのだ。高崎は複数の鉄路が交わるターミナルという役割があるから、鉄道の存在感が大きくなる。JR両毛線と小さなローカル私鉄の駅があるだけの前橋とは、あまりに事情が違うということだろう。
ちなみに、前橋市の人口は約34万人。群馬県最大の都市は高崎の37万人だからその差はわずか3万人である(県下3位は太田市の約22万人)。ほとんど町としての規模は変わらない。が、玄関口たる駅のお客の数は大差が開く。このあたりに、双子のような前橋と高崎という2つの都市の性質の違いがよく現れている。