「おじいちゃんに、恩返ししてるんだね」
時代は一気にくだって、2021年6月の20日。京都の少年野球チーム「錦林ジュニア」は、緊急事態宣言下の最終日、ひさしぶりの試合に臨んだ。
「左京支部長杯」、仁和ホワイトホースとの準々決勝は午前8時スタート。
エース、キャプテンの6年生、加納明虎くんの粘り強いピッチングで、試合は2対2のまま、6回裏を迎える。2アウト三塁からヒットで勝ち越し、時間切れで3対2のサヨナラ勝ちを収める。来週は準決勝、強豪・北白川ベアーズとの対戦だ。
午後は「中京少年野球振興会」所属チームの交流戦。相手は七条ファミリーズ。初回に四球、エラーがらみで取られた4点を、その裏に5点を奪い、一挙逆転。最終的には9対7で競り勝つ。
3投手をリードし、勝利に導いた6年のキャッチャー小西城太郎くんは、
「初回の石井くんは、初先発にしてはなかなかよかった。3ボールから追い込んだりしてましたし。2番手の東伏見くんは、いつもよりは、あんましよくなかった。次ですね。最後の長谷川くんは、スローボールが抜群でした。(長谷川)浩輝なら、これがふつうです」
今シーズンの野球がはじまり、これからしばらく、12月までつづく。その先に、どんな光が、まぶしい風景が待っているのか、まわりのコーチ、家族はもちろん、野球少年たち本人にもけしてわからない。もちろん、わからないままでいい。
前週の6月12日、小6だった父の博信さんが「野球をやめた」宮城球場、現・楽天生命パーク宮城で、「テルくん」佐藤輝明は、「マーくん」田中将大から、規格破りの16号ソロホームランを放った。スタンドでは、82歳の佐藤勲さんと、奥さんの美智恵さんがふたり並んで見まもっている。
「おじいちゃんに、恩返ししてるんだね」
美智恵さんがいうと、
「教えた甲斐、あったな」
勲さんはそういってうなずいた。
小学校にあがる前、テルくんの投げた一球の感触を、勲さんの手はおそらく、いまも深く覚えている。その遠い響きに、目の前の、背番号8のプレイが重なる。いまもキャッチボールはつづいているのだ。ときをこえ、土地をこえて。
身長187センチ、体重94キロの背番号8番の向こうに、勲さんはきっと、やせっぽちで負けん気の強い、雪を散らしてボールに飛びつく、西宮の野球少年の姿を、ありありと見てとることができる。
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