この春は見ごたえあるドラマが揃った。春ドラマの活況を牽引したのは『コントが始まる』『大豆田とわ子と三人の元夫』だ。

 最優秀ドラマに、どちらを選ぶか。悩みに悩み、『コント』に軍配を上げた。三十代目前の、売れないコント芸人三人の解散までを描く攻めの姿勢と笑いが、今年のヒリついた空気を伝えて、強く印象に残る。

 コント集団マクベスの三人は春斗(菅田将暉)、潤平(仲野太賀)、瞬太(神木隆之介)。三人とも巧いが、上昇度を買って仲野太賀を助演男優賞に選ぶ。仲野君、『恋あた』の実らぬ恋に傷つく“いい奴”で好感度アップしたが、今作でも芸と家族にもがく青年を熱演。いま切なさを演じて断トツの俳優だ。

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 高校中退で弁護士出身という異色の裁判官が主人公の『イチケイのカラス』の竹野内豊が主演男優賞。正義感は強いが、いつも飄々として穏やかに笑みを浮かべる。竹野内は五十歳。いい役者になったね。若いエリート裁判官役の黒木華との掛け合いも絶妙。

 主演女優賞は大豆田とわ子役の松たか子だ。松田龍平、角田晃広、岡田将生と結婚して別れた。終盤に至って、オダギリジョーまでが驚きのプロポーズだ。

『大豆田とわ子と三人の元夫』主演の松たか子 ©文藝春秋

 松たか子の魅力を引き出したのは、やはり深い信頼で結びついた親友かごめ(市川実日子)だ。シスターフッドという言葉で、女同士の友情に触れた。

 かごめは六話で突然死んだ。最初の夫、八作(松田龍平)にメールが届く。自転車に乗り、買い物を済ませ救急病院に。霊安室の前にとわ子がいた。モテ男の八作だが、かごめを愛していた。だけど、かごめは恋愛は苦手。永遠の片思いだ。

 柳田國男の『妹(いも)の力』を想起する。戸籍上の妹に限らず、母や姉、妻や恋人までも含む女性に宿る霊力が“妹の力”だ。オダジョーにも別れを告げたとわ子が八作の店に寄る。二人が大好きだったかごめの話をしていると、扉の外で音が。しかし誰もいない。そうか、かごめだ。三人がここにいるんだ。妹の力で、八作と、とわ子の愛情もつづく。だから助演女優賞は市川実日子だ。

『コントが始まる』にも、不思議な力をもつ妹が登場する。マクベスの大ファン里穂子(有村架純)の妹、つむぎ(古川琴音)だ。面倒くさい性格の姉を思いやる、さばさばした性格の優しい子だ。『大豆田』で、かごめが消えたのと入れ替わるように、『コント』では、つむぎの出番が増え、存在感を増した。

 ファニーな顔と声の古川琴音がいると、失意でささくれだったマクベスのメンバーが柔和になり、一度は頑になった姉の心も穏やかになる。今年最強の「妹の力」を持つ古川琴音に新人賞だ。かごめ。つむぎ。サンキュー、二人の妹たち。

INFORMATION

『大豆田とわ子と三人の元夫』
フジテレビ系 火 21:00~
https://www.ktv.jp/mameo/