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「河鍋とよという一人の女性を書けたと思います」
明治初期を舞台にした『名残の花』につづく近代を描いた今作。自身が得意としてきた古代史と異なる部分に苦しんだところもあったという。
「史料が多いですね。掘り出したら、とても時間が足りないし、史料自体も、書いてあることがそれぞれに違って、どれが正しいのか迷うこともありました。でもそのおかげで、日本の近代の濃密さを改めて感じましたし、数年単位で、価値観が次々転換していく時代の目まぐるしさもよく分かりました。書いている途中は二度と嫌だとさえ思いましたが、書き終えた今はこの面白い時代をもっと知りたいと考えています」
父の影に翻弄されながらも、ふたつの時代を生き抜いたとよ。その眼には何が映っていたのか。
「人生って結構嫌なことが多いですよね。でも8、9割方嫌なことがあっても、1、2割のいいことがあったら我慢できる。とよの人生には、確実にそういう幸せな時間があったと思うんです。河鍋暁翠という絵師ではなく、河鍋とよという一人の女性を書けたと思います」
さわだとうこ 1977年京都府生まれ。デビュー作『孤鷹の天』で2011年中山義秀文学賞、16年『若冲』で親鸞賞、20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞受賞。