昼職もしないと「金銭感覚がオカシクなる」
天涯孤独になったアコは親戚に引き取られた。そこで待っていたのは、かつての貧乏暮らしと真逆の“裕福で温かい家庭”。だがそれは、次第に“違和感”へと変わった。
押し付けがましい幸せにじっとはしていられなかったが、まさか出会い系アプリを使って援助交際を始めるとは自分でも思っていなかった。16歳の春だった。
いきなり与えられた、ステレオタイプな幸せな家庭像。それに反抗するかのごとくはじめた援助交際――。置かれた環境によりその反発方法はまちまちだが、多くの高校生が経験する、思春期特有の複雑な感情か。
しかし、アコからはなげやりな印象は届いてこない。淡々と、時に笑みまで浮かべて話す。
援助交際は、高校入学時から続けていた一般的なアルバイトとの掛け持ちだった。ファミレス、コンビニ、介護補助……時給は、いずれも1000円にも満たない。夏休みは、コンビニで12連勤したこともあった。それでも援助交際一本には絞らなかった。
「昼職もしないと金銭感覚がオカシクなるなと思って。このままエンコーだけを続けたら、ずるずると深みにハマると思ったから。まあ、貯金しなくても大抵の物は買えたので、既にオカシかったんでしょうけど」
お金よりも“求められてる感”が嬉しかった
アルバイトでは月に10万円が限界だったというが、高校生からすれば大金に違いない。「もっと、もっと」とエスカレートしたのか。
「いや、もうその時はお金とか興味なかった。“求められてる感”とか、そっちじゃないですかね。自分でもよく分からないけど、それが嬉しかったのは事実だから。その頃は、お金で“幸せが買える”と思ってた。若いからって理由で売れるワケじゃないですか。そんなのわかってたけど、カラダだけでもいいから私のことを求めてくれることが嬉しかったから。まあ、いまはお金のために働いてますけど」
なぜカラダを売ったのか。僕はアコの言葉だけでは理解できないでいた。そこで、あえて承認欲求という便利な言葉を使ってみた。不特定多数とセックスすることで「満たされていたのでは」と。
「どうですかね。うーん、繰り返しになるけど、とにかく嬉しかったです。『メチャ楽しいー』みたいな」
明確な答えなどなかった。何度も同じ質問を繰り返したが、笑顔でこうおどけてみせる。「カラダを売ることなんて大したことじゃない」。表情は、それが愚問だと訴えている。
だからと言って、単に嬉しかっただけなのだろうか。アコの素行の裏側を解き明かすには過去を知らなければならない。
僕はアコに、買春した客たちの素性から尋ねた。
「みんな20代でした。だからフツーの大学生と遊んでる感覚でした。それでお金も貰えて」