いわき市を出た二人の行方
この事件の真相に迫るためには、女性と一緒にいた男性についても調べる必要があると思った。ただ男性は、女性の地元では誰とも接点がなく、手がかかりは掴めなかった。
私は福島県いわき市を離れて、東京に戻った。改めて警視庁への取材を進めることにしたのだ。すると、男性についていろいろなことがわかってきた。
警視庁によると、男性は40代の無職。東京・北区に実家があった。さらに結婚歴があり、都内に家も持っていた。しかし離婚し、家は前妻に譲ったらしい。その後、出会ったのが女性だった。2012年に知り合ったというのだ。
では、ふるさとのいわき市を出たあと、二人はどのように生活をしていたのか。さらに取材を進めると、いわき市を離れたあとに二人が向かった先は、男性の実家がある東京・北区だったことがわかった。男性と実家の関係は悪く、頼ることはできなかったようだ。そこで男性の友人の家で寝泊まりをするようになった。しかし、長く居ることはできない。
友人らの家を転々とする暮らしが続いたというが、次第にそれも限界となる。そこで二人が選んだのは、女性の車の中で生活することだった。二人の車上生活は、家族や友人など頼れる人や居場所を失った末に行き着いた、最後の拠り所だったようだ。
女性だけがパートで働く車上生活
当然、金はない。働かない男性に代わって、女性はパートの仕事を始めた。女性が勤務していた会社は、北区にある梱包会社だった。
手がかりを求めてこの会社へと向かうと、男性社員が取材に応じてくれた。男性は、「女性は1年以上働いていたが、雇われているパート従業員は多く、特段印象には残っていない。それ以上はプライバシーに関わるので話せない」と言葉少なに語ると、仕事へと戻っていた。
取材から見えてきた二人の生活は日中、女性が梱包会社で勤務。その間、男性は車の中で待機していた。男性が働こうとしなかった理由はわからなかったが、献身的な女性に甘えていたのかもしれない。
女性は逮捕後、家に住まなかった理由について、警視庁の調べに対し「二人とも携帯電話を持っていなかったので、契約できないと思った」と説明していたという。
これまで貧困に苦しむさまざまな人たちを取材してきたが、携帯電話やその他の連絡先を持たないからといって賃貸契約ができないわけではない。支援団体などの助けを借りて契約できるケースも多い。二人きりの生活を続けるなかで、次第にいわゆる“情報弱者”の状態に陥ってしまったのではないか、と私は思った。