車上生活を余儀なくされた人たちの生活実態に迫ったドキュメンタリー番組『車中の人々 駐車場の片隅で』(2020年2月放送)は、放送直後から各所で大きな反響を呼んだ。社会から距離を置き、一種の“漂流生活"を送る車上生活者たちは、いったい日々何を考え、どのように暮らしているのだろうか。
ここでは、同番組の製作に携わったスタッフたちによるルポルタージュ『NHKスペシャル ルポ 車上生活 駐車場の片隅で』(宝島社)の一部を抜粋。男性との出会いをきっかけに、家を出て車で生活するようになった女性について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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「お母さんは疲れ果てていた」
「見知らぬ男性と一緒にいる姿をよく見かけるようになった」(近所の人の話)
女性は、一人の男性と一緒に実家で暮らすようになった。男性は背が高く、女性より10歳ほど若く見えたという。県外から来たようで、最初、母親は見知らぬ男と一緒に生活することに反対し、男性を家に入れることを許さなかった。そのため、男性は女性の軽乗用車の中で生活していた。
その後、二人は実家の裏手にあったプレハブ小屋で生活するようになった。女性はこれまで仕事に打ち込み、家族と共に過ごしてきたが、男性と一緒に過ごすようになってからというもの、内職を辞めてしまった。次第に母親の年金を頼りにするようになっていったという。男性は地域の人といっさい交流はなく、女性も周囲と疎遠になっていった。
最終的に、女性はふるさとの福島県いわき市を離れることになった。二人は女性の車に乗り込んで関東方面に向かったという。逮捕される3年前、2015年の話である。
「娘さんが出て行く頃、お母さんは疲れ果てていた。旦那さんが残してくれた金も自分の年金もなくなり、娘も失ったからだろう」
女性が家を出たあとの母親の様子について、近所の女性はこのように語った。
残された家族の心
この証言がいつまでも胸に残った。取材を進めるなかで、無意識のうちに、私も自身の人生を振り返るようになっていた。私事で申し訳ないが、私の母はシングルマザーだ。父親がギャンブルで借金し、家を出た。そのことを私に打ち明けたときの母親の涙はいまだに忘れられない。
なぜ、借金をするまで父親がギャンブルにのめり込んだのかはわからない。父親のことはあまり覚えていないが、寡黙な人だったと記憶している。仕事などで悩んでいたのかもしれない。ただ父親がいなくなり、私は、そして家族は、とてもつらい思いをした。
残された家族の心には必ず傷が生まれる─。これは、私が自らの経験から感じていることだ。そういった経験をしているからだろうか、女性の行動には疑問を持たざるを得なかった。