2018年10月、元徴用工が日本企業を相手に起こしていた損害賠償訴訟で韓国の最高裁判所は原告の訴えを認める判決を出し、その後、韓国にある日本企業の資産の現金化への手続きが進んできた。ところが、2021年6月7日、別の元徴用工ら(85人)が日本企業(16社)を同様に訴えた一審裁判で、ソウル中央地方裁判所(ソウル中央地裁)は原告の訴えを却下した。
同じく今年1月、元慰安婦らが日本を相手に起こしていた損害賠償訴訟(以下、第1次慰安婦訴訟)でソウル中央地裁は原告勝訴の判決を下した。国家免除(ある国の裁判所が他国を訴訟の当事者として裁判を行うことはできない)を主張し、裁判に応じていなかった日本は控訴せず、判決が確定。
しかし、こちらも今年4月、別の元慰安婦らが日本を相手に起こしていた同様の裁判(第2次慰安婦訴訟)では原告の訴えは却下され、ソウル中央地裁は日本の国家免除を認めた。
この6カ月の間に日本が絡んだ同様の裁判で相反する判決が出て、韓国で論争になっている。
同様の裁判なのになぜ判決がこうも変わるのか。
覆えされた判決に、韓国メディアも困惑
「この事件の被害者の損害賠償請求権は請求権協定(1965年の日韓請求権協定)の適用対象に該当する」
6月7日のこの判決は韓国で大きな波紋を呼んだ。前述した通り、元徴用工の裁判では18年10月、韓国の最高裁判所がこれとは正反対の要旨により原告勝訴とする判決を出しており、これまで下級審がこれを覆す判決を出すことはなかった。これを報じた韓国メディアも困惑した様子で、韓国の中道系紙の司法担当記者も思わず耳を疑ったと言う。
「最高裁の決定を覆す判決は違法ではもちろんありませんし、過去にも良心的兵役拒否問題(信仰する宗教により韓国で義務とされる兵役を回避すること)で最高裁が有罪としたものを下級審が無罪とし、最終的に憲法裁判所で良心的兵役拒否者の投獄は違憲となったケースがありました。しかし、非常に稀なことですし、日本企業を相手にした訴訟ではもちろん初めてのことで、驚きました」