どちらも新たに赴任した判事が担当
冒頭の判決だけではない。今年3月には、第1次慰安婦訴訟で原告が日本政府へ訴訟費用の支払いを命じる申請を出していたがこれも却下されている。訴訟費用は12人の原告1人あたりおよそ300万ウォン(約29万円)。勝訴した1月の判決には損害賠償金と共に訴訟費用を被告(日本)が支払うよう記されていたが、ソウル中央地裁は「強制執行は日本の国の主権を損ねる」として申請を退けている。
実は、第1次慰安婦訴訟では判事が1月と3月では別の人物に交代している。先の記者は言う。
「韓国の裁判所では2月に定例の人事異動があり、第1次慰安婦訴訟を担当している民事合議34部では判事の交代がありました。3月には新しいキム・ヤンホ部長判事が赴任しており、キム部長判事は6月7日の元徴用工の裁判で原告の訴えを却下した判事でもあります」
「国際法と国内法の関係をどう解釈するか」による食い違い
一方、第1次慰安婦訴訟で勝訴した原告は4月、日本政府へ賠償金の支払いを求めて、韓国にある日本国の資産の情報開示を求める申請をソウル中央地裁に出し、こちらは、6月9日に認められた。担当部署は単独51部という異なる部署で、ソウル中央地裁は日本政府へ韓国内にある資産の開示命令を出している。
では、異なる判事のためこうした食い違いが生じたのか。そこには、国際法と国内法の関係について解釈の違いがあると前出記者は言う。
「保守傾向が強かった司法がようやく民主化したともいわれています。国際法も国内の出来事に照らし合わせれば国内法と同等となるという解釈が裁判所内に広がってきているのです。そして出されたのが2018年10月の判決です。
しかし、この判決に異議を唱えた最高裁判事の少数意見も判決に添付されましたし、この少数意見と似たような意見を持つ国際法学者も多かった。この頃から、国際法と国内法の関係をどう解釈するかの違いが鮮明になってきており、そのため、日本を相手にした裁判で判決の違いがでてきたと見られています。
裁判所サイト内の掲示板には地方の高等裁判所長の名で最高裁の判決を覆した6月7日の判決へ反駁するコメントも上がりました。判事が他の判事の判決を公に批判することはとても異例なことで、6月7日の判決が司法界に投じた意味の重さをよく表わしています。論争はこれからヒートアップしていくでしょう」