定年退職を迎える60歳以降になってからプランを立てたのでは、選択の幅が限られる。まだ健康で選択の自由度が高いうちにマネジメントを始めることは圧倒的に有利である。そのプランを実行するために欠けているものがあるのなら、40代の10年があれば準備したり対策を立てたりできるはずだ。これこそが戦略的に老後を迎えるということである。
70歳まで収入を得られるようにしておく
「老後のために何千万円くらい貯金したらいいのでしょうか?」
インタビューや講演先で、こんな質問を受けることが多い。もちろん老後資金が潤沢であることに越したことはないが、いったいどれだけの人が何千万円もの貯金を準備できるだろうか? 老後資金が2000万円不足すると金融庁の報告書が指摘しただけで、大きな波紋が広がったことを思うと、何千万円もの貯金が出来る人ばかりではないだろう。
それよりも、少しでも長く定期収入を維持することのほうが重要かつ現実的だ。70歳までは収入を得られることを目指したいところである。たとえ収入が現役時代の半分以下となったとしても、毎月15万円ほどの現金収入があるのとないのとでは、大違いだ。したがって、定年以降は老後などではなく、むしろセカンドキャリアだと考えるべきである。
セカンドキャリアへの準備と考えて、勤務先で認められている人は40代のうちから副業・兼業といったダブルワークに積極的にチャレンジしてみるのもよいだろう。厚労省が2018年にガイドラインを作成して、副業・兼業の規定が設けられたので、容認する企業も徐々に増えてきた。第一生命HD、日産自動車、みずほFGといった大企業でも、副業を解禁するところが出てきた。
厚労省の調査(「副業・兼業に関する労働者調査結果」2020年)によると、正社員のうち副業をしている人はまだ5.9%でしかないが、今後ダブルワークはごく当たり前のことになっていくはずだ。なぜなら、働き手世代が減っていく以上、ひとりで何役もこなさないといけなくなるからだ。しかも、DX(デジタルトランスフォーメーション)で中級スキルレベルの社員の人件費を減らしたいという事情を抱える企業がある一方、人手が集まらなくなり、優秀な人材に辞められては困るので、兼業で複数のキャリアを持つことを認めざるを得ないという企業もある。否応なしに雇用の流動化が進まざるを得ない。