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「いきなり年寄りでごめんなさい」 “持ち家なし”“年収は700~900万円”“還暦目前”の男性が直面した婚活のリアル

『57歳で婚活したらすごかった』より #1

2021/07/01
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「ほっぺにミルクがついていますよ」

 そう言われて顔を上げると、二人組の女性参加者がくすくすと笑っている。その一人が僕の顔に付いたコンデンスミルクをハンカチで拭いてくれた。

 参加してよかった。

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婚活バスツアーは体力勝負

 夕方から夜にかけての牧場散策はグループ行動だ。40人の参加者をあみだくじでABC3チームに分けて、2時間を過ごす。

 この時間帯になると、身にしみたことがある。婚活バスツアーは体力勝負だ。57歳。しかも前夜は遅くまで仕事をしていた。だから、睡魔との闘いになった。眠い。しかも、寒い。どうやら牧場は標高が高いらしい。しかも、最年長者という理由でAチームのリーダーにさせられた。行きがかり上男女13人のAチームを率いて歩いていると、丸太作り風の小屋が視界に入った。お土産店兼カフェらしい。ひらめいた。

「皆さん、聞いてください!」

 大きな声で、僕のまわりにAチームのメンバーを集める。

「寒いので、Aチームはあのカフェを基地にします。僕は全2時間、カフェで待機しています。皆さんはどうぞご自由に、お気に入りのかたと牧場を散策してください。手をつなごうと、暗がりに行こうと、お好きなように。ただし、二つだけ約束してください。一つ目は、時間を守ること。バスが出発する15分前にはカフェに集合してください。二つ目は、男女で散策する男性は僕と電話番号を交換させてください。万が一なにか事故があったときに連絡を取り合うためです。以上です」

 反論は許さない。発言のすきを与えず、さっさと暖かいカフェに逃げ込んだ。

 Aチームは男女ともまじめなメンバーがそろっていた。

「牧場を歩いてきます!」

 そう言って、カップルになった男は電話番号のメモを僕に渡して出かけていく。僕も自分の電話番号を伝えた。

 意外だったのは、半分くらいのメンバーが僕と一緒にカフェに残ったことだ。朝早くから緊張状態で婚活を続けてきたので、疲労しているのだ。それに、外は寒い。

 僕はチームリーダーという職権を利用してみんなに1杯200円のコーヒーをご馳走し、長く生きてきたからこそのくだらない会話をして“いい人アピール”に努めた。

©iStock.com

 時間が許すならば、バスツアーはとてもすぐれた婚活ツールだ。男女とも人間性がかなりわかる。長時間なので、ごまかしがきかない。食事もするので、飲酒や喫煙の習慣もわかる。しかも、1度で多くの女性と連絡先を交換できた。

 いちご狩りバスツアーの後、僕は二人の女性と食事する機会を得た。

 一人はIT系の企業で働く33歳。利発で魅力的な女性だったが、年の離れた友人のような関係以上にはなれなかった。

 もう一人は38歳。コンデンスミルクをハンカチで拭いてくれた女性で、食品メーカーでデスクワークをしていた。何度か食事をし、ジャズのライヴも観に行った。しかし、交際にはいたらなかった。「どうしても年齢差が気になる」と言われた。

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