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「いきなり年寄りでごめんなさい」 “持ち家なし”“年収は700~900万円”“還暦目前”の男性が直面した婚活のリアル

『57歳で婚活したらすごかった』より #1

2021/07/01
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「婚活バスツアー(ハート)いちご狩りとキラキラ(ハート)ライトアップファーム(ハート)」

 参加費は1万5000円。高いか、安いか、それは自分次第だと思った。

 バスツアーならば、参加者の人間性が見える。お見合いパーティーはふつう1時間から2時間程度だ。しかし、バスツアーはまる一日。じっくり相手を観察できる。集団行動なので、社交性や協調性もわかる。

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 ただし、申し込みには大きな障害があった。年齢枠が設定されていて、その上限を僕は大幅に超えていたのだ。

「男性は25歳から50歳位」

 ホームページに記されていた。上限を7歳も上回っている。7歳オーバーは“位”の域ではない。でも、問い合わせは自由だ。参加できる年齢枠のツアーもあるかもしれない。

 電話をすると、体育会系出身を思わせるはきはき声の女性スタッフが出た。

「このツアーは、男性は何歳まで参加可能でしょうか?」

 わかっているけれど、聞く。

「50歳位となっております」

「ああ……、やっぱり……」

 残念な気持ちが電話の向こうの相手に伝わるように大きくリアクションした。

「失礼ですが、おいくつでしょう?」

「57です」

「そうですかあ……」

 相手のトーンが下がった。57歳は年齢制限をオーバーし過ぎている。

「そうなんです……」

 しばし沈黙の時間が流れた。

「少しだけ、電話を切らずにお待ちいただいてもよろしいですか」

 上司に相談しているのだろう。待っているうちに猛烈に恥ずかしくなってきた。電話を切りたい。しかし、切ったら参加はできない。その時、さっきの女性の声が耳に響いた。

「お待たせして申し訳ございません。お受けできそうです!」

 主催者は年齢枠を厳密に守るよりも1万5000円の売上計上を優先した。

婚活バスの中

 隣の席の女性がちらちらとこちらを見ている。20代だろう。小学生の頃にテレビで見ていたアニメ『アルプスの少女ハイジ』のクララに似ている。小柄で、目が大きく、まつ毛が長い。オジサンがどうしてここにいるの――という目線だ。

「皆さん、おはようございます!」

 黒のパンツスーツのスタッフがマイクで挨拶をした。

「おはようございまーす!」

 参加者もいっせいに声を上げる。

 これは婚活だ。パートナーがいない男女の集まりだ。にもかかわらず、参加者は目一杯明るい。

「本日はご参加いただき、ありがとうございます! 今日一日、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いしまーす!」

 その日初めて集まったとは思えないほど声がそろう。まるで小学校の遠足だ。

 参加者は男女とも20人で計40人。進行は通常の婚活パーティーと同じだ。発車とともに男女の会話はスタート。隣同士の男女がおたがいのプロフィールを交換して話す。5、6分で男性がシートを移動。次の女性と話す。午後はいちご狩りをして、夕方から夜にかけてはライトアップされた牧場を訪れる。

 車内を見渡すと、参加者の主流は20代から30代だろう。圧倒的に年齢が高い僕は目立つ。修学旅行の引率の先生になった気分だ。