今年6月には、うるま市にある米陸軍の「貯油施設」から、最大で650ガロン(約2460リットル)が流出し、国と沖縄県が立ち入り調査に入った。
KISEという抜け道
かつて防衛省で基地汚染に対応する環境対策室長をつとめた世一良幸によると、こうした「抜け道」は、米国の基本姿勢によるのだという。
〈known, imminent and substantial endangerment〉
「広く知られ」「差し迫った」「実質的に」脅威があるかどうかが、米軍が浄化の責任を負うかどうかを見極める物差しになっているというのだ。頭文字を取って「KISE」と呼ばれる。
世一が注目するのは、最初の「K」、つまりknownという形容詞だ。裏を返せば、汚染が広く知られていなければ浄化しない、と読める。
「米軍は汚染浄化に取り組まないために、あえて調査しないこともできるということです。そこに日本側の判断は及びません」
このため、在日米軍基地をめぐるさまざまな汚染が指摘されながらも、日本側の求める基地内への立ち入り調査や米軍による浄化はほとんど実現してこなかったのだ、という。
閉ざされた日米合同委員会
環境省は、国内にある米軍基地内の水や大気などについて毎年、調べている。
ところが、2014年度からは、それまで認められていた基地内での調査は行われなくなった。沖縄県が嘉手納基地内にある井戸群などで高濃度のPFOSを確認した翌年ということになる。
立ち入りが認められなくなった理由について、環境省は「米側との協議内容は公表できない」と説明を拒んでいる。
背景に、基地に由来する環境汚染を扱う日米合同委員会の閉鎖性がある、と世一は指摘する。米軍幹部と日本の外務・防衛などの官僚が日米地位協定の運用について協議する機関だ。
その日米合同委員会の議事録にはこう書かれている。
〈双方の合意がない限り公表されない〉
すべては水面下で話し合われ、記録はあかされず、なにが議題に上ったのかさえわからない。横田基地にからむ地下水汚染についても闇の中だ。世一は言う。
「事実上、ブラックボックスになっているのです」
横田基地のほかにも
ところで、東京・多摩地区の汚染源はじつは、横田基地だけではなかった。
東京都の調査で、すでに触れた立川市、府中市、国分寺市、国立市以外にも、小平市や東村山市、東久留米市、狛江市、西東京市、小金井市、調布市などで個人が所有する飲用井戸から高濃度の有機フッ素化合物が検出されており、実態はより深刻だ。