にもかかわらず、東京都や環境省に汚染源を調べようとする動きはない。土壌汚染対策法で、健康被害が生ずるおそれがある場合は(自治体が)調査を求めることができるとされているものの、有機フッ素化合物による健康への影響については世界的な評価が定まっていないことを理由に実施されていない。
有機フッ素化合物汚染の問題に取り組む弁護士の中下裕子はこう話す。
「東京都は高濃度の汚染物質が出たとして地下水源からの取水を止めたものの、このまま蓋をしたままなら、真の解決とはいえません。汚染源を突き止めて、地下水を浄化させ、再びきれいな地下水を飲めるようにすることが行政の責任ではないでしょうか」
日本だけがこのまま「永遠の化学物質」を放置しつづけるのか
さらに、健康への影響も気がかりだ。
東京都水道局が有機フッ素化合物についての水質調査を始めた2005年度以降、2019年度に一部の浄水所で取水を止めるまで、高濃度の地下水が飲み水として家庭に送られてきた。汚染のもっともひどい府中武蔵台浄水所では15年連続で年間の最大値が100ナノグラムを超えていた。おそらく、それ以前も高濃度がつづいていたと考えられる。しかも、測定方法が古いため、実際の濃度はもっと高い。
東京都環境科学研究所の調査では、1950年代から東京湾の海底の地層でPFOSが確認されている。そうなると、多摩地区の一部の住民たちは約半世紀にわたって、高濃度の有機フッ素化合物を含んだ水を飲んできたことになる。
このため、中下が代表をつとめるNPO「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」は昨年夏、地下水源からの取水を止めた府中武蔵台と東恋ケ窪の両浄水所の一帯で、住民たちの血液検査をした。すると、22人中5人から「高い」とされる数値が出た。
「国や東京都は、有機フッ素化合物による健康への影響については世界的な評価が定まっていないことを理由に、健康調査をしないというが、逆ではないですか。健康への影響がわからないからこそ、調査すべきではないでしょうか」(同前)
有機フッ素化合物はPFOSやPFOAのほかにも数千種類あるとされ、規制対象外の代替物質はいまも使われている。すでに環境問題だけでなく、健康問題の疑いも濃い。それだけに、どれほど体内に取り込まれ、血液中に蓄積されているかを調べなければ、実態はつかめない。
体内汚染を調べる血液検査の実施などを盛り込んだ「環境安全基本法」の制定に向けて、中下たちは署名活動をはじめている。
海の向こうでは、アメリカで規制強化を掲げるバイデン氏が大統領に選ばれるなど、PFAS(有機フッ素化合物の総称)への注目が高まっている。
一方、東京都をはじめ環境省、厚労省、防衛省は、汚染が明らかになっても静観をつづけている。日本だけがこのまま、「永遠の化学物質」を放置しつづけるのか。
文中一部敬称略/写真=諸永裕司