皆さんは“サメ映画”という言葉をご存じだろうか。
かのスティーブン・スピルバーグ監督作、『ジョーズ』(1975年)の大ヒットから端を発する、サメをメインテーマあるいはサブテーマに起用した映像作品の一ジャンルである。さほど映画に詳しくない方でも、試しにご近所のレンタルショップに出向き、ジャンル:アクションの旧作コーナーに目をやってみれば、そこにはやれ『ナントカ・ジョーズ』だの『ナントカ・シャーク』だのといったタイトルの、どこかうさんくさい雰囲気の作品がちらほらと置いてあることに気がつくだろう。そう、それが“サメ映画”だという認識である程度間違いはない。
『ジョーズ』以前にもサメを取り扱った映画は散見されるが、現在“サメ映画”と呼ばれる作品の多くは、多かれ少なかれ『ジョーズ』の影響を受けていると言っても過言ではないだろう。たとえば、同じくサメが登場する大作パニック・アドベンチャー映画『ディープ・ブルー』(1999年)などは、一見して『ジョーズ』とはまったく無関係のストーリーでありながら、実は本編にこっそり“『ジョーズ』で使用されたものと同じナンバープレート”を忍び込ませている。
また、太古の怪物メガロドンが海で暴れるアクション映画『MEG ザ・モンスター』(2018年)では、監督のジョン・タートルトーブが「(自分の手がけるサメ映画で)『ジョーズ』の単純な真似だけはしたくなかった」と、逆説的に『ジョーズ』を意識して作っていた旨のコメントを残している。とにもかくにも、まず『ジョーズ』があり、次に“サメ映画”が生まれた。それを踏まえた上で、このコラムではサメ映画の魅力を読者の皆さんにお伝えしていきたい。
初代『ジョーズ』のプロット=サメ映画の“お約束”
くどいようだが、サメ映画の魅力を語る上で、絶対に欠かせない作品が『ジョーズ』である。『ジョーズ』単体の面白さもさることながら、同作の脚本・展開を、後発の亜流作品がそっくりそのまま流用したり、部分的にオマージュしたり、その他似たようなアニマル・パニック映画を好き放題作っているうちに、いつしか初代『ジョーズ』のプロット=サメ映画全般にも共通して見られる“お約束”となってしまったためである。
たとえば、「物語冒頭の舞台は水辺で、サメが漁師ないし水着姿の美女を殺す」というお決まりのつかみ。「観光地でサメが猛威を振るうが、経済的損失を考慮した地元の有力者が、事件を隠蔽する」という流れ。“生物学者”と“駆除対象の動物に詳しいベテランハンター”がしばしば登場するキャラクター配置。そして、「クライマックスでは、サメが爆発四散する」という決着方法。100パーセントすべてのサメ映画に通じるというわけではないにせよ、その多くの作品が継承しているお約束が、『ジョーズ』一本に網羅されているのだ。
なお、『ジョーズ』とほぼ同じストーリー展開をしているサメ映画の例として、『ジョーズ・リターンズ』という作品が挙げられる。タイトルには“リターンズ”とついてはいるものの、その実『ジョーズ』とは完全に無関係の、いわば二番煎じ作品。その上アメリカ合衆国での上映時、あまりにも『ジョーズ』に似過ぎていたことから、およそ1ヶ月で公開中止となったという、なかなかロックなサメ映画だ。ちなみにこの『ジョーズ・リターンズ』、なまじ『ジョーズ』をそのまま模倣している分、「誠に遺憾ながら、そこそこ見られる」出来であり、また当時の一般客からの評判はそう悪くもなかったことから、商業的には成功している。